新潟酒の陣の前の日に新潟県の妙高市にある君の井酒造を訪問して来ました。君の井酒造のお酒は新潟酒の陣では必ず飲んでいるお酒で、こんな素晴らしいお酒を造っている蔵を訪問したいと常々思っていましたが、昨年3月に北陸新幹線が開通したことからこの機会に訪問したいということで計画したものです。新潟のお酒を東京の丸の内で飲める「すいようでい」でお会いした営業の阿部さんにお願いいたしましたら、快く受けていただいて実現したものです。「すいようでい」については下記のブログをご覧ください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2014/10/post-0bc4.html
蔵は北陸新幹線の上越妙高駅から長野の方に5Kmくらい戻った新井駅の近くにあります。この地は佐渡で産出した金を江戸の運ぶ輸送路として使われた北国街道の新井宿にあり、蔵はその北国街道に面したところにありました。まず蔵の入口の母屋をご覧ください。この母屋はとても古い建物のようですが、明治時代にこの地が大火にあって、町中が燃えたと言われていてその後に建てられもののようです。
事務所の軒を見ますと、雪国によく見られる雁木構造になっています。現在は、この雁木はこの事務所の前しかないですが、昔は町中が雁木でつながっていたようで、それが町全体を失うほどの大火になった原因となったそうです。
出迎えていただいたのは総務担当の木賀誠さんでした。ここは事務所内の展示コーナーです。展示品を良く見ると吉永小百合さんの写真がありました。
君の井酒造はJR東日本のコマーシャルの大人の休日倶楽部新潟県「越後杜氏」篇の舞台となったところで、吉永小百合さんが蔵を案内する形式のコマーシャルでした。ご覧になった方も多いのではないでしょうか。下の写真はその時の記念写真です。
最初に木賀さんに蔵の歴史などをお聞きしてから蔵見学をしましたが、まず蔵の歴史を紹介しましょう。
<君の井酒造の歴史>
この蔵の創業は1842年とされていますが、上述した町の火災で過去の記録が焼失して残っていなかったのですが、1842年の高田藩の酒つくりの許可証が見つかったたことからこれを創業年としたそうです。
君の井酒造となったのは昭和26年だそうで、それまでは田中酒舗として屋号は「田中屋」と呼んでいたそうです。君の井という名前は、明治時代に蔵の隣のある「東本願寺別院」に明治天皇が来られ、お酒(金崋山)を献上したことからつけられたようです。君子に献上した君の字と良質な水がわき出る井戸の井の字が由来となっています。
この蔵の基礎を造ったのは2代目田中大五郎さんだそうです。大五郎さんは先見の目があり、いち早く昭和3年に全国に先駆けて琺瑯タンクの導入をするとともに、お酒の品質を上げるために高精米が必要だと、当時の横型の精米機をやめて縦型の精米機の導入を図かり、昭和4年には当時としては珍しい鉄筋コンクリー製の蔵を建てたそうです。
それだけでなく、新潟の吟醸酒造りの父と呼ばれる元国税局鑑定官である田中哲郎を若い頃君の井酒造で修業させ、酒造りを教えるなど、人の教育にも熱心だと聞きます。一番功績があったのは日本では新潟しかない県の醸造試験所場の設立に参画し、新潟県の酒の資質の向上に貢献したことです。そして、昭和7年には第13回全国酒類品評会で全国1位の受賞しています。その後数々の賞を取り続けるなど、酒造りの技術は着実に上がったそうです。
その後も大五郎の遺志を引き継ぎ、昭和42年には篠田次郎設計の新工場を建設し、平成4年にはコンピューター制御の精米機の導入をしています。生産高は一時は12000石ありましたが、現在は5000石だそうです。そのうち特定名称酒は30%で、70%が地元で消費される普通酒のようです。
<蔵見学の紹介>
昭和42年に建てらけた工場は事務所の建屋の奥にあります。そこに行く通路は事務所というより昔ながらの蔵の趣がありました。もともとここは蔵として使っていたところで、火災で焼け残ったものを利用しているので、梁が黒くなっていました。
この古い蔵は未だ現役として使われていました。それは和釜と貯蔵庫でした。まず和釜をご覧ください。通常のお酒は新工場の連続蒸米機を使っていますが、大吟醸はこの和釜を使うそうです。やっぱり良い蒸し米には和釜が良いのですね。
凄かったのは貯蔵庫でした。1タンクが100石(18000L)の四角いタンクがずらりと並んでいました。ここだけで3000石位あるのではないでしょうか。
また大吟醸用の洗米場もありました。和釜との関連でここにあるのでしょう。
次に訪れたのは平成4年に建設された精米工場ですが、事務所の建物の隣に立っていました。中野式堅型醸造用精米機が3台並んでしました。この蔵で使用しているお米は山田錦、越淡麗、五百万石、越吹雪ですが、一番多いのが五百万石だそうです。
またここには糠の分別槽がありました。右の槽から特上糠、上糠、中糠、トラ糠、赤糠、最後は読み取れませんでした。ここで袋詰めされます。
それでは新工場へ行ってみましょう。新工場と言っても昭和42年建築ですから、新しいものではなく3階だての鉄筋コンクリートの黄色い建屋です。右上のラックは精米工場から新工場に搬送するラックだと思います。
3階に洗米場があり、浸漬タンクがありました。大吟醸以外はこの浸漬タンクを使うそうです。
ここまでは木賀さんが案内していただきましたが、ここからは杜氏の早津宏さんにしていただきました。早津さんは昭和32年生まれ現在59歳の杜氏で昭和51年に君の井酒造に入社され、蔵で修業され杜氏になっています。早津さんは自ら田んぼを持ち、夏は米つくり、冬は酒造りをしているそうです。そして、酒造りに適したお米はどう作るべきかを自問自答しながら、米つくりにもこだわっています。
早津杜氏の酒造りにには次のようなこだわりを持っているそうです。
1.原料となる米にはこだわり、精米は自社でやること。
2.伝統を守り味わいのある山廃つくりを大切にする。
とても穏やかで謙虚な人で、麹作りはよくわからないのですよと言いながら、しっかり造りをやっておられる方であることが良くわかりました。
下の写真が麹部屋の種付けをしている床です。部屋の温度は32-3℃だそうです。
その隣には天幕式と言われる製麹の床がありました。冷却だけを自動で行いますが作業はすべて手作業です。この金網の上に木綿の天幕を敷いてそのうえで麹の切り返しや揉みほぐし作業を行うそうですが、目的によって麹の厚みを制御すれば、箱などはいらないとのことでした。従来の形にとらわれない考えをお持ちのようでした。部屋の温度は27度だそうです。
麹は結果的に突き破精になるそうですが、酵素力は総破精より弱いけど、醪の段階で麹が溶けて行きながら中から順次酵素が出てくるので、良い酒ができるそうです。通常出麹の温度は43度だそうですが、お酒によってアミノ酸を増やしたい場合は仕舞仕事の段階で37度~38℃より上げないようにして、蛋白分解酵素を増やして製麹時間を延ばしてやることもあるそうです。麹の造りにはファクターが多すぎて難しいとの話でした。
<酛つくり>
酒母室の見学はできませんでしたが、山廃用と速醸用の部屋を持っているそうです。山廃つくりはこの酒母造りがキーになります。特に温度制御に気を使う必要がありますが、そのためには温度制御用の暖気樽を使いますが、この蔵はアルミ製の暖気樽は使わなくて、木製の暖気樽を使うそうです。このほうが温度制御が緩やかになり、山廃つくりに向いているそうです。木に勝るものはないそうです。この辺も実戦で鍛え上げた自信の表れでしょう。山廃つくりには強い信念があり、朝日山酒造の杜氏が山廃造りを教わりに来たことがあると言われていました。
下の写真の方が杜氏の早津さんです。木製の暖気樽の説明をしていただきました。蒸したお米を入れる時も木製の飯樽を使うそうで、母屋にある和釜の蒸し米を入れた飯樽を担いでここまで走って運ぶそうです。凄い重労働ですね。
<生酛系酒母造り>
酒母を造る目的はアルコール発酵に必要な酵母を大量に培養することです。酒母造りは最初に蒸米と麹と水を入れることから始まります。日本酒つくりは開放の状態で行うので、様々な雑菌が入るので、それが増殖することを抑えなければなりませんが、そのために乳酸を入れて酸性にすることにより雑菌の増殖を防ぐ方法が主流でそれを速醸法と言います。
それに対して蔵内にある乳酸菌だけを繁殖させて乳酸を造る方法が生酛とか山廃と言われる方法です。まず酒母の原料を入れて発酵させるとまず硝酸還元菌が増殖し、水中の硝酸を亜硝酸に変えます。この状態にすると雑菌が死滅し代わりに乳酸菌が増殖します。すると乳酸菌が乳酸を出して酸性が高まり、硝酸還元菌や野生酵母が死滅します。この乳酸酸性の高い状態で清酒の酵母を入れると目的の酵母だけが増殖するというわけです。
生酛と呼ばれる方法は最初の蒸米を櫂ですりつぶすことを行う方法で、この作業を山卸と呼びますが、この作業が大変なので櫂でつぶさないで麹の酵素力で溶かす方法を山卸を廃止したということで山廃と呼ぶのです。ですからどちらも酒母を造るのに速醸法に比べて時間がかかるけど、乳酸菌や様々の微生物が生み出す成分が含まれるので、味わい深いお酒になると言われています。ですから山廃や生酛造りと言っても蔵によって全然違うお酒になるのです。
酒母を造る映像が君の井のホームページにありましたので、ご覧ください。酒母のところをクリックしてください。山廃を造っている動画が現れます。山廃と言っても生酛に近い感じが良くわかります。
http://www.kiminoi.co.jp/flow.html
<仕込み部屋>
ここは普通酒や本醸造や大きな純米酒を仕込む部屋のようですが、1万Lのタンクが32本並んでいました。小さな仕込み部屋も3階にあるそうですが、見ませんでした。
この蔵が使っている酵母は基本としては、普通酒と本醸造は7号酵母、純米酒は10号酵母、吟醸酒は18号酵母で、9号酵母は使っていないそうです。9号酵母はどうしても最後にアミノ酸の苦みが残ってしまうからだそうです。
ここがそのタンクの下の部分です。タンクの冷却は冷水ではなく2-3℃の冷風を使っているそうです。この部屋全体を7度に空調しているので可能なのでしょうが、経済的には得なのかなと思ってしまいました。
絞りは薮田2台だけだそうです。槽はあるけどほとんど使わないそうです。薮田の部屋は空調ができますが、普段は除湿だけしているそうです。
見学の最後に最近導入した新型のボイラーを見ることができました。かっこいいですね。
以上で、蔵見学の紹介を終わりますが、最後に試飲をさせていただきました
左側から順番に紹介します。
・ 君の井 本醸造 上撰 五百万石
味がしっかりしていて後味がスキットして酵母は10号と7号のブレンドだそうです。本醸造はアルコールが入っていて、普通酒より濃くてきれい、純米酒より軽い味わいで、味が引き立つので、杜氏は純米酒より好きだと言われました。
・ 君の井 純米酒 五百万石
この蔵の速醸タイプの定番のお酒で、酵母は10号酵母のお酒です。このお酒は活性炭を通しています。このお酒の原酒を特別にいただきましたが、イソアルミの香りがしました。杜氏のお話では10号酵母は新酒のうちはイソアルミの香りが出て、活性炭を使うとそれが消えるようです。
・ 純米吟醸 山廃造り 蔵秘伝 五百万石
伝統ある山廃造りの純米吟醸の定番で、五百万石58%精米、酵母10号のお酒です。
・ 純米大吟醸 山廃造り 越淡麗
このお酒は越淡麗と山田錦がありますが、ラベルではわかりません。優しさを与える甘みとまろやかな酸味みとバランスし、ふっくらとした旨味を感じるお酒でした。アミノ酸は+6位あるそうです。
・ 純米酒 山廃仕込み 無ろ過 越淡麗
この純米酒は18号酵母を使っていて、お米は麹米が越淡、掛米が越吹雪の珍しいお酒でしたる。乳酸の甘い感じの酸味を感じる複雑系の味でした。これは試験的に造られた純米酒のようです。
以上で試飲の説明を終わりますが、早津さんの気取りのない正直なご説明に心がうたれました。基本は活性炭濾過して、1年くらい熟成して出すようです。でも本当に熟成を楽しみたい場合は無ろ過で2-3年熟成させる方が良いという話にも驚かされました。
以上で君の井酒造の報告を終わります。数年前から新潟酒の陣の前の日に蔵見学をする企画を続けてきましたが、その日に酒の陣に出展している蔵の商談会が行われるようになったので、前日の蔵見学が難しくなってきたようです。ですから、今年が最後の企画になるかもしれません。
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