7月に五反田の野崎屋で山本合名会社の社長兼杜氏の山本友文さんをお呼びして「山本を楽しむ会」が開かれましたので、参加してきました。この蔵は白瀑(しらたき)というお酒を長年造ってきた蔵ですが、友文さんが杜氏になって造り始めたのが山本シリーズで、初めて造ったお酒を近所の酒屋に持っていたら、白瀑ではない名前にしたほうがいいということで、つけた名前だそうです。しらたきと呼んでくれる人はあまりいないし、山本のほうが判りやすいということで、今では全生産量の7割が山本だそうです。
まず蔵の紹介をしたいと思います。山本合名会社は明治34年に創業した蔵で、秋田県のはたはた漁で有名な八峰町にあります。この地は能代から約16KMほど北に行った日本海と白神山地に挟まれたところで、蔵は海岸までは300mほど、白神山地の麓までは東に約1kmほどの所にあります。この白神山地の麓に白神神社があり、その裏山に高さ17mの白瀑があることから白瀑という命名されたそうです。
この蔵の特徴の一つは仕込み水にあります。蔵が海岸の近くにあるので、地下水を使うことは難しく、蔵から3kmも離れた白神山地の中腹から湧き出る天然水を蔵まで引き込んで使っているそうです。この工事は村民総出で手堀りをして水道管を引いたというから、その当時の蔵の勢いが想像できますね。しかも湧き水が出る場所と蔵のと標高差は100m(水圧10K)もあるので、蔵で水を止めると水圧で水道管が壊れるので、水は垂れ流しているそうです。この水は軟水で柔らかくお酒造りに適しているとのことでした。
大正時代に入って生産量が増えて、昭和40年には全国に先駆けて大吟醸の出荷を開始し、東京や神戸の料亭に提供するするほど勢いがあったそうですが、昭和の後半から日本酒業界の衰退に巻き込まれ、生産量も最盛期の1/10にもなったようです。そんな状態の時に友文さんは蔵に戻る決意をしたようです。
まず、山本友文社長をご紹介します。下の写真はお酒の説明で熱弁をされているところです。蔵に戻って14年、現在6代目社長で、杜氏になって9年、8造りをしたばかりの46歳のベテランの蔵人と言えます。
友文さんはアメリカのミシガン州の大学で機械工学を勉強した後、東京で音楽プロダクションで働く仕事をされていました。きっと音楽が好きだったのでしょうね。蔵に行くとビートルズのBGMが流れているそうですから、そんな片鱗が見えますね。親からの要請で32歳の時に蔵に戻ったそうですが、この時は経営的に苦しく破産寸前だったそうです。
蔵に戻ってすぐやったことは営業強化で、全国各地の地酒専門店に売り込みをしましたが、「この程度の酒質では家ではとても扱えない」という返事ばかりだったそうです。店主が勧めるお酒を購入し、どんなお酒なら売れるのかを勉強した結果、やみくもに売るのではなく自信をもって売り込める酒に限定して販売する方向に舵を切ることにしました。でもいい酒はなかなかできない状態だったので「最後は自分で酒を造ってみよう。それでだめなら諦めよう」決断したそうです。
そこで、従来からの杜氏制をやめて、自ら製造責任者兼杜氏になることを決めたのが9年前で、今年で8造りを経験したことになります。まず、蔵の個性は何かを考え、醸造用アルコールを添加する酒をやめて純米酒だけにすることと、華やかな香りがするカプロン酸エチル系の酵母ではなく、シックな香りが出る酢酸イソアミル系の酵母を中心に据えることにしたそうです。幸いにも秋田県には総合食品研究センター内に醸造試験場酒類グループという酒造りの専門組織があり、そこの先生に色々と相談させていただいた結果、ベテラン杜氏がいない素人集団でも、何とか酒造りができるようになったそうです。
そんな折、同じように自ら酒造りを行っている蔵元5人と技術交流を目的とした「NEXT5」を結成し、お互いに切磋琢磨する環境ができ、ますます酒造りの腕が磨かれることになったようで、今では自ら酒造りを始めた9年前の3倍以上の生産量の約1400石になっているようです。
ちょっと面白い話を耳にしましたので紹介します。山本さんは麹造りが味を決めるポイントだとよくいわれていますが、そのためには麹室をいつも清潔にしておく必要があると考えています。ですから麹室には、お掃除ロボットのルンバと床拭きロボットのブラーバを入れているようです。さらにオゾン水生成機を購入して手洗いや口ゆすぎの洗浄用の水として使っているそうです。さすが、機械屋さんですね。いいものはどんどん導入するみたいだけど、趣味的なところもあるのではないかな。
また、酒造りは米つくりからを徹底させ、蔵の仕込み水が100%流れ込む田圃で、自ら酒米を栽培することもしているようで、そのために蔵人が朝晩田圃まで行って。仕込み水が夜だけ田圃に流れるように切り替え作業をするそうです。仕込み水で酒米を作る例は他にはないようですが、そこまでやる価値があるのかな・・・・。
では次に飲んだお酒の紹介をしますが、その前にこの会を開催した野崎屋の紹介をします。野崎屋は池袋の酒菜家をはじめとする野崎酒店グループの中では去年開店した一番新しい居酒屋で、五反田駅西口から歩いて5分のところにあります。初めていく時はちょっとわかりにくいので、インターネットでお店を検索するか、電話してみてください。
03-3779-5730
店長は本庄一紀さんです。本庄さんは利き酒師で調理師の免許を持っているので、お酒もお料理もわかる方です、下の写真の青いシャツを着て、マイクを握っています。
左の橙色のシャツを着ておられる方は野崎グループの総店長の野崎紀治さんです。
それでは早速お酒を紹介しましょう。まずはリストを見てください。本日は10種類の山本と最後に隠し酒が1本でました
この会ではお料理にも大変気を使っていただいたようで、秋田の様々な貴重な材料を使った心あるお料理を提供していただきましたが、いただいたメニュをなくしてしまいましたので、あまり紹介出来ないことをお許しください。
これが最初に出た前菜ですが、左の上には秋田県産のジュンサイが出されました。山本さんのお話ではこのような小ぶりのジュンサイは高級品でめったに食べられないそうです。
お酒をご紹介するにあたり、原料米と精米度は当然わからないと意味ないし、香りと味を決めるのは酵母なので、それはしっかり紹介したいと思っていたのですが、会の初めに酵母の質問は受けないような発言があり、がっかりしていていました。でも実際は本人が自分で紹介していましたので、わかったものについては書いておきます。
1.ドキドキ 山本 純米吟醸
酒こまち55%精米、日本酒度+2、酸度3.2、alc15%の純米吟醸で、7月限定発売の夏酒です。夏でもぐいぐい飲めるようにアルコール度数を落として、リンゴ酸を出す特殊な酵母を使って、軽くて爽やかな酸があるのが特徴です。
確かに酸っぱいけど氷を入れて夏にぐいーと飲むには良いおさけだと思いました。
お酒の名前がドキドキというのはどうしてかな。初キッスのイメージらしいのですが、僕のようなお爺さんにはわからないのかも。
2.山本 ピュアブラック 純米吟醸 生原酒
酒こまち麹米50%精米、掛米55%精米、日本酒度+2、酸度1.8、alc16%の純米吟醸で、山本さんが杜氏になって最初に作った酒だそうです。当初は薫り高い酵母を使っていたようですが、現在はイソアミル系の香りがする秋田酵母12号を使っているそうです。酒質としては少し辛めで酸度を高めにして切れを出しているそうです。
飲んでみるとバナナ系の香りがしますがそんなに強くはなく、口に含んだ後、すうっと消えていくお酒でした。この味にするには酵母だけでなく麹造りがポイントだそうです。
なお生原酒は升新商店だけのオリジナルブランドだそうです。
3.山本 ミッドナイトブルー 純米吟醸 1回火入
酒こまち麹米50%精米、掛米55%精米、日本酒度+1、酸度1.6、alc16%の純米吟醸です。
このお酒はピュアブラックとつくりはほぼ同じなのですが、酵母をこまち酵母R-5に変えて、香りを少し乗せて酸を抑えぎみにしたお酒だそうです。
確かに飲んでみるときれはピュアブラックと同じくらいですが、酸が嫌みのない軽い酸なので、あまり強く感じません。寿司や向きといわれるのはよくわかります。
4.山本 試験醸造 純米大吟醸 生原酒
試験醸造は毎年何種類か必ずやるそうで、今年も4種類やったそうで、そのうちの1本がこれだそうです。
三郷錦35%精米、日本酒度+1、酸度1.7、alc15%の純米大吟醸で酵母は秋田県で最近開発したUT-2を使っています。UT-2は長時間冷蔵保存しても搾りだての味をそのまま保持することができる酵母だそうで、具体的には生ひねの原因となっているイソアミルアルコールの生成をできるだけ抑える酵母だそうです。
飲んでみると後味に綺麗な酸味を感じて、余韻を残して消えていくバランスの良いお酒でした。UT-2の酵母はなかなかよさそうですね。4合瓶で4400円もするお酒ですが、一度飲む価値はあると思います。
5.山本 スパークリング 純米吟醸生
このお酒はピュアブラックの生酒を粗目のフィルターでろ過したままビン詰めし、瓶に中で2次発酵させると、ビン内の糖分が酵母に食べられ、アルコールと炭酸ガスになり、ほとんど糖分にない発泡酒になるそうです。2次発酵前の日本酒度はー1ぐらいでしたが、発酵後の日本酒度は+8~+11くらいになるそうです。
お米は酒こまちで日本酒度+11、酸度1.8、acl14%です。
このお酒は単独で飲むと、ちょっと辛めの発泡酒という感じで物足りないのですが、お肉料理の肉の油を切ってくれるので、ぴったりです。この会でもローストビーフに合わせて出てきました。
このローストビーフは山本酒造の酒粕を食べて育った白神牛でとても珍しい貴重な和牛だそうで、この会のためにわざわざ取り寄せたそうです。
このお酒は山本さんが持っている田圃で、無農薬、無化学肥料で山本さん自らが育てた酒こまちだけで仕込んだ純米酒です。
このお米つくりは手がかかっているので、米単価は非常に高くなるし、量が少ないので、米つくりに参加した酒屋さんだけに取り扱ってもらっているそうです。全国で10店、秋田でも5店だけで、価格は1升4000円もしますが、原価割れの価格なのでお買い得だそうです。
酒質としては、酒こまち58%精米以外の情報は全く書いていませんが、飲んでみるとピュアブラックに近いバランスでしたが、後味にざらつきが残るのと穀物臭が感じがしたのは精米度のせいかもしれません。
7.山本 サンシャインイエロー 山廃純米吟醸
一般に山廃仕込みのお酒はちょっと熟成香がして、味がしっかりして独特の酸味があり、お燗に合う酒というイメージがあるのを逆手に取って、夏の時期に飲んでおいしい、お燗ではなく冷やして飲む山廃を目指したものだそうです。
この会では酒質が紹介されていませんでしたが、ほかの店の情報によりますと、酒こまち55%精米、日本酒度+4、酸度2.3、alc15.5%で酵母は蔵付き培養酵母のセクスイ山本酵母だそうです。
秋田県では秋田県の13の蔵付き酵母を培養して公開しましたが、この酵母は分離された蔵でしか使うことはできませんが、山本の蔵付き酵母は4番酵母で、山本さんがセクスイ酵母と名付けたそうです。
飲んでみると落ち着いた香りとすっきりとした酸味を感じる山廃らしくないお酒で、夏ロックで飲んでもいいかなと思いました。
8.山本 金賞受賞酒 純米大吟醸
全国新酒鑑評会で金賞をとっているお酒のほとんどが、山田錦で、酵母が18号系かM310で、アルコール添加のものが多いので、山本さんは金賞を狙うのであれば、その条件でないもので取りたいと考えていました。
平成24BYでは米は秋田こまちで、酵母は秋田県の開発した「こまちR-5」の純米大吟醸で見事金賞をとりました。その後26BYでは今や秋田ではあまり使わなくなったクラシック酵母のAK-1で出品し見事金賞をとりました。27BYでは新政の6号酵母(6年前に新政からもらったものを自家培養したもの)を使ってまたも金賞を受賞して関係者を驚かせています。一番心配だったのは新政の杜氏の古関さんだったのではないでしょか。山本さんにはプレッシャーはなかったかもしれませんが、古関さんは新政が金賞を逃して山本だ受賞したらと、気が縮む思いだったと思われます。でも新政も金賞が取れてよかったです。
酒質については紹介されませんでしたが、ほかの店の情報によると、お米は酒こまち40%精米、日本酒度+1、酸度1.6、alc15.5%だそうです。飲んでみると、落ち着いた吟醸香で、爽やかできれいな味わいですが、軽い酸味とあわさった、格上のお酒でしたが、新政の6号酵母とは違う味わいでした。同じ酵母でも造りで変わるものですね。
今年は6号酵母の純米酒で金賞をとり、秋田県の他の蔵も山本が取れるならば俺たちも純米でチャレンジしようという蔵が増えたそうです。来年は7号酵母でチャレンジするつもりだそうです。どうなるのか楽しみですね・・・・・・・
9.山本 和韻 純米吟醸 生原酒
このお酒は蔵元と一緒に酒を造ろうという企画のお酒で、10軒の酒販店が2月に蔵に行って酒造りのお手伝いをしてできたお酒です。
このお酒の狙いはワイン酵母を使ったお酒ですが、ワイン酵母だけだと、香りがなく酸度も4以上になった上にアルコール度も12~13と低かったので,UT-2を半分加えてできたお酒です。
酒質は酒こまち55%精米、日本酒度-3、酸度2.0、alc14%
ふくらみがあり後味の余韻がワイン酵母の酸の良さが出て、ワインのような後味を感じる面白い酒です。これは一度は飲んだほうが良いお酒だと思います。
秋に美山錦45%の和韻第2弾が出るそうなので、期待しています。なおこの写真は升新商店の写真を使わせていただきました。
10.山本 ストローべりレッド 純米吟醸 1回火入このお酒はピュアブラック、ミッドナイトブルーとは姉妹関係にあるお酒で、お米と精米具合は同じで、酵母は秋田のクラシック酵母であるAKー1を使っていますが、一番違うのは麹に白麹を使っていることです。
麹の中の1/3を白麹を使っていることです。黄麹は口でかむと甘みを感じるのですが、白麹はレモンの輪切りを噛んだような酸味を感じるそうです。この酸はクエン酸だそうで、この酸のおかげで焼酎の中の雑菌の繁殖を抑える効果があるようです。
全量白麹にすると酸っぱすぎて飲めないので、1/3に抑えたそうで、酒質は酒こまち麹米50%、掛米55%、日本酒度±0、酸度2.3、alc15.5%でした。
飲んでみると思ったほど酸っぱくはなく、1番のドキドキの方が酸っぱいくらいでした。どっちの酸が好きかは好みの問題でしょう。
番外編:NEXT5 Bar Zingaro
今年のNEXT5の共同醸造品のBar Zingaroです。NEXT5が結成されたいきさつについては、良く知られていますので、ここでは省略しますが、NEXT5が結成されて、今年が7年目になります。5年で各蔵の担当が一回りをして、去年から再度新政に戻ったのですが、今までと同じことをしても面白くないということで、他の業界の人とのコラボレーションを始めることになったそうです。
去年はテクノミュージックのアーティストのリーチフォーティンとのコラボをしたのですが、今年はホップアートの村上隆とのコラボレーションで生まれたお酒です。
酒質は山田錦45%精米、日本酒度+3、酸度1.6、alc15%で、ゆきの美人の秋田醸造で新政流生酛つくりで作ったお酒です。
このお酒はお酒のデザインに興味のある人が発売日に買いあさって高値の転売が起きるほどの過熱ぶりでしたが、これを企画したNEXT5の皆さんの思いとは全く違う動きなので苦々しかったのではと思います。
以上で山本の会で飲んだお酒の紹介を終わりますが、最後に久しぶりにいろいろな山本の酒を飲んだ僕の印象を述べさせていただきます。
率直な話、山本の酒がこんなに良い酒になっているとは思いませんでした。ただ綺麗なだけではなく、味にはいろいろな狙いを持った味わいをもっており、それがある幅の中にきちっと納まっているのに驚かされました。お酒のネーミングなどに山本さんらしい遊び心は大いに感じられるのですが、お酒にはちゃんとバランスをもって表現されているのは、山本さんが一皮むけた大人になったのだと感じました。NEXT5の環境で切磋琢磨することにより、酒造りの技術の向上だけでなく、精神的にも成長されたのだと思います。しかも肩の力を抜いて新しいことにチャレンジされているのがとても素晴らしいと思いました。これからもますますユニークで人を驚かせるお酒を造ってください。
最後に今回お料理を提供していただいた野崎屋さんに厚くお礼申し上げます。
そして最後に一緒にお酒を飲んだ女子グループとこの会のサポートをしていただいた升新商店の社長の山崎さんの写真をの載せておきます。
最後の最後に山本さんとのツーショットも載せておきます
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