八方園の槐樹で行われる蔵元さんと日本酒を飲む会は今回で19回目になりますが、参加してきました。今回は山口県の萩市にある岩崎酒造の社長の岩崎喜一郎さんをお迎えしての会でした。岩崎酒造は生産高が300石と非常に小さな蔵なので、東京で飲む機会はあまりありませんでしたが、山口県の酒造組合が主催するやまぐち地酒維新の会では何回か呑んだことがあり、とても良いお酒を造る蔵だなと思っていましたので、今回はそのお酒をじっくり堪能しようと思って参加したものです。
まずは蔵の紹介をしたいと思います。この蔵は中国山地より流れ出た阿武川が萩市の海に注ぐ前で阿武川と橋本川に分かれることによって作られた三角州の中央部にあります。明治34年に初代当主の岩崎小左衛門が現在の場所とは違うところで酒造りを始めたそうですが、その後、近くで酒を造っていた酒蔵を引きついて現在の場所に移ったようです。
蔵は萩市のど真ん中にあるという話なので、グーグルマップで調べたら、町の中央の田町商店街のアーケードの中にありました。日本中の蔵の中でもアーケードの中に蔵があるのは珍しいと思いグーグルから写真をお借りしましてので、ご覧ください。
写真を見ていただくと確かにアーケードの中にありますが、店構えをよく見ると蔵の面影があります。この店口の奥が造りをしている蔵なのでしょうね。
お酒造りにはきれいな水が欠かせないと言いますが、社長にお聞きしたらここは阿武川の伏流水が出るそうで、硬度60くらいの軟水で酒造りには向いているそうです。この地は海と山に囲まれた古くから漁業の盛んな土地であったことから、その土地の食べ物に寄り添うような酒造りには適しているそうです。
造っているお酒の銘柄は長陽福娘、萩毛利、はぎなどですが、メインの銘柄は長陽福娘です。その名前の由来は創業当時の蔵元の家に女子が続けて誕生したことから「福々しい良い子の育つように」との思いで福娘を、そして山口県の名を表す長陽地区と、お酒がおいしくなる重陽の節句という意味をかけ合わせて長陽福娘と命名したそうです。
蔵元は岩崎家で引き継がれて、現在は5代目で岩崎喜一郎さんが2010年に社長になられています。
喜一郎さんは1964年7月に萩市に生まれていますから、現在53才です。県立萩高校を卒業され、東京の芝浦工業大学の機械工学科に進学されました。大学卒業後は滝野川の醸造試験所で勉強された後、お酒の卸売り店の太田商店に勤務され、26才の時に蔵に戻っています。
蔵には熊毛杜氏がおられて酒造りを教わってきたそうですが、その杜氏も高齢になになったので、2012年から自らが杜氏となって現在に至っています。ですから喜一郎さんは社長兼杜氏の蔵元です。
どんなお酒造りを目指しておられるのかをお聞きしたら、「優しいお酒」で飲んでこれは凄いというようなお酒ではなく、飲んでいいる人の気持ちに寄り添うような食中酒を目指しているそうです。
取り扱っているお米は昔は五百万石が多かったそうですが、今では山口県産や萩産の山田錦、西都の雫、岡山県産の雄町、広島県産の八反錦に絞っているそうです。その中でも山田錦と西都の雫に力を入れているようです。
それでは早速飲んだお酒の紹介をしましょう。今回は5種類のお酒を堪能しました。いつもよりは数が少ないけれども、岩崎さんが選りすぐったものです。
右側のお酒から
1.長陽福娘 山田錦 斗瓶囲い 大吟醸
このお酒は山田錦35%精米の袋吊り斗瓶囲いの大吟醸で、いわゆる出品酒用に作ったお酒で、市販されていないお酒です。アルコール度数は17~18度、日本酒度は+2.5、酸度は1.5のお酒で、口に含むと軽いカプロン酸エチルの香りが漂ったお酒でしたので、酵母をお聞きすると協会18号と熊本酵母(9号系)のブレンドだそうです。
飲んでみると口に含んだ時のふくらみが少し足りないけど、後味で少し辛みを感じながら消えていくお酒でしたが、出品酒にしてはちょっと物足りない感じがしました。でも温度が上がってくるとしっかりふくらみが出てきましたので、冷やし過ぎるとその良さが出ないような気がしました。去年の山田錦は溶けが悪かったので、どの蔵も味乗りが悪く少し軽めの味わいになったようです。
2.西都の雫 純米吟醸
このお酒は山口県産の西都の雫40%精米の純米酒で、アルコール度数は15~17度、日本酒度+3.5、酸度1.5のお酒です。この精米度ならば純米大吟醸と言っていいはずなのに、どうしてそうしなかったのかは説明はありませんでした。酵母は1番のお酒と同じ協会18号と熊本酵母のブレンドです。
飲んでみると1番のお酒と全く同じ香りがするし、味わいも大変似ていました。でも温度が上がってくると、山田錦の方が膨らんできて、西都の雫の方が軽い感じがしました。杜氏のお話では西都の雫の方が硬いお米なので味がストレートな甘みになってしまうそうです。
このお酒はインターネットで調べてもみつかりませんでした。きっと特別に山田錦に変えて西都の雫を使ったらどうなるかを試験するためのお酒だったのではないでしょうか。
西都の雫は山口県が開発した酒造好適米で、山口県の穀良都というお米と山田錦の流れをくむ西海222号をかけ合わせてできたお米です。山口市が西の京都と言われることにちなんだ西都に淡麗で切れの良いお酒をイメージして西都の雫と命名されたそうです。
このお酒は萩市で取れた山田錦を使った純米吟醸酒で、精米度は50%、酵母は山口9Eです。山口9Eは9号系の酵母をベースに純米酒用として山口県が開発した酵母で、西都の雫との相性がとてもいいそうです。
酒質は日本酒度が5.5、酸度1.8、アルコール度数16~17のお酒で、搾ったお酒をそのまま瓶に詰めた直汲み生酒です。飲んでみると9号系でありながら、さわやかなイソアミル系の香りがするお酒で、自然な甘みが程よい酸味とまじりあって、ぴちぴちしているけどすっきりした味わいのお酒でした。個人的には少し寝かせてから飲んでみたい気もしました。
4.西都の雫 夏純米 薄にごり
このお酒は西都の雫のお酒が後味に少し苦みが出ることを逆手に取り、夏酒用として作ったお酒で、西都の雫60%精米、酵母は山口9Eで、日本酒を7.5、酸は少し抑え気味の1.35の薄にごりの純米生酒です。
普通夏酒はアルコール度数を下げて飲みやすくしたお酒が多いのですが、このお酒は逆にアルコール度数を上げ、澱を少し含ませることにより甘みを出しながら、日本酒度は辛口にしてすっきり感を出す狙いのようです。
飲んでみるとすっきりしていながら、適度な旨みを感じるバランスがとても良いお酒でした。色々なものと合わせられるお酒でした。1升瓶で2700円(税抜き)ですので、お買い得だとおもいました。
5.重陽福娘 辛口純米酒 無濾過生
飲んでみると香りはそれほどないけど、口当たりが柔らかくトロットした味わいのあるおさけで、日本酒度が+8とは思えないお酒でした。辛口の酒としてはうまく作っていると思いました。
以上で飲んだお酒の紹介を終わりますが、この蔵のお酒の印象はどのお酒を飲んでもすごくうまいお酒という感じはしないけど、きちっと設計された外れのないお酒造りをしているように思えました。
ひとつ前のブログで紹介しましたが、お酒の味は造り手の性格を表すものであると新政の佐藤祐輔さんが言われたことを思い出しました。この蔵のお酒は岩崎喜一郎さんの真面目な性格がよく出たお酒だと強く感じました。
会の中で喜一郎さんに大学で機械科を卒業して何か造りに役に立ったことがありましたかとお聞きしたら、発酵の過程を分析する時に有限要素法(昔習ったけど忘れました)を使って解析したことが発酵を理解するうえで勉強になったと言われたのが印象に残りました。
喜一郎さんは酒造りに真面目に向き合ってきちっと対応する方なのだと思います。まだ杜氏になって6年目ですから、これからもっとい新しいことを切り開かれると思いますので、今後を期待していきたいと思います。
槐樹の日本酒の会はお酒だけでなく、お料理が売りで、会のお酒を事前に取り寄せ、お酒に合わせた特別な料理を作って出すことに特徴があります。
今回のメニューは以下のの通りです
1.乾杯の肴 あざく (うざくをもじってアナゴのあざく)
水蛸の昆布締め、枝豆ととうもろこしのゼリー寄せ
山口産の車エビのシュウマイ
中身の一つ一つはわかりませんでした
3.創作寿司 鯵の棒寿司 夏ミカンの香り
4.温物 鱧の湯引き、鱧の頭酒
5.締め 胡麻だれつけ麵
6.甘み みほとユイの秘密(中身は不明)
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