先日用賀のなかむらやで墨廼江酒造の澤口社長と明鏡止水の大澤専務を囲む会があり参加してきました。なかむらやではしばしばこのような会を開催されているようですが、久しぶりの参加です。この会は通常二つの蔵元をお呼びして開かれますが、蔵元が1つのテーブルに10分だけおいでになり、蔵元からお酒を注いでもらいながら会が進むのです。もちろん一度全テーブルをまわれば、次からはだんだんめちゃめちゃになりますが、その最後の段階が一番面白くなりますね。
お店が横に広いお店なので、真ん中で皆に向かってお話しても酔ってくるとなかなかお話を聞いてくれないような環境になるのがわかって、こんな仕掛けを考えたのでしょうね。この仕掛け人がこのお店のマスターの中村直人さんです。
いつもこのようにシェフの格好をされていますが、昔シェフをしていたことからこれが一番落ち着くのでしょうね。声はガラガラ声でちょっと慣れないと怖いかもしれませんが、とても心の熱い優しい方です。この会がすごいのは蔵元ととの距離が凄い近いので、本音の話が聞けること、それから中村さんが持っている秘蔵酒が出ることかな。でもこの雰囲気を造っているのがマスター本人なのは間違いありません。
この二つの蔵をなかむらやに結びつけたのは東京都の町田市鶴川にある酒舗まさるやの専務取締役の園部将さんです。
お店の名前のまさるやは自分の名前の将からとったもののようで、彼は今42歳のベテラン営業マンですが、お店を始めたのは18歳だったそうでその心意気がお店の名前になったそうです。 かっこいいやんちゃーな雰囲気が見えますが、きっと心の熱い人なのでしょうね。
この会には墨廼江酒造の社長の澤口康紀さんと明鏡止水の大澤酒造の専務取締役兼杜氏の大澤実さんが来られました。
まだ会の始まる前でしたので、表情が硬いですね。後でお二人の本当のお姿をお見せしますね。
今回のブログは蔵別にご紹介するとして、最初は墨廼江酒造をご紹介します。
墨廼江酒造は石巻のにある蔵で、昔は伊達藩のお米の積み出し港として栄え、千石船が多数往来する拠点であり、澤口家もここに海産問屋と穀物問屋を始めました。その後墨廼江地区にはその名前を銘柄にしていた酒屋があったのを譲り受けて、1845年に墨廼江酒造を創設しました。
明治29年の三陸大地震の時に津波の被害を受け河口にあったお店は大きな被害を受けたので、その後今の墨廼江酒造のある場所に住居を移設したそうでです。酒造りを本格的に開始したのが3代目の清次郎の時代だったようで、今の澤田康紀さんは6代目になるそうです。
その康紀さんが平成23年3月11日に東日本大地震の津波により大きな被害を受けることになったのです。このことについてはここで詳しくお聞きしましたので、ご説明したいと思います。
当日は蔵にいたそうですが、地震の大きな横揺れで、蔵が壊れたかなと思って、揺れがおさまってから蔵の中を点検してみると、壁はかなりやられていても倒れることがなく、瓶の割れも1000本くらいなのでなんとかなると安心していたら、蔵の人が「あれは何ですか」と指をさした方向を見て驚きました。黒い波が押し寄せているのに気がついたのだそうです。直ぐ社員全員と家族を安全だと思われる冷蔵コンテナの上に避難させて、難を逃れたそうです。
この地区は海から2kmも内陸にあり、明治の三陸大地震でもチリ地震でも津波の被害は受けなかったのですが、今回は北上川をさかのぼってきた津波が押し寄せたようです。80cmの高さの泥水が蔵全体を埋め尽くし、3日間水が引かなかったそうです。
震災後も水道の復旧に2週間、電気の復旧はさらに時間がかかり、本格的な普及作業に入れたのは20日後だったそうで、汚泥の処理が完全に終わったのは秋までかかったそうです。
当時もろみが10本立っていたのですが、搾り機の薮田も制御盤がやられて使いもににならない状態でしたし、電気も水もないので温度は成り行きになっていたので、使いものにならないと思っていたのですが、他の蔵の人のサポートで薮田も動くようになり、4月1日に震災後の初めての搾りをしたそうです。
搾ったお酒は日本酒度は+15、アルコール19度もあったけど、だれずにピンとしていたので、これで助かったと思ったそうです。震災後の皆さんの応援でトータル生産量の20%減でおさまったのは奇跡と言えるかもしれません。これで復興の勢いがついたそうです。この際不要なタンクなどを整理し、去年からは完全に再スタートができたそうです。
以上が震災の影響でしたが、皆さんの支援でなんとか乗り切ったということですね。こんなに支援してもらったことがありがたく思えたことは無かったそうで、これからはその恩返しで頑張るそうです。
お話を聞いた時の澤口康紀をご紹介します。
とても良い顔をしているでしょう。この笑顔でお酒造りをすれば何でもできますよね。この蔵の狙っている酒は柔らかく気品のある酒造りだそうです。
以前は9号酵母でしたが、その後7号酵母、アルプス酵母、山形酵母、金沢酵母と色々試したけど、蔵の目指す酒質に合ったのが宮城酵母だったそうです。 当分はこれに決めて進むそうです。宮城酵母初代は浦霞酵母から生まれたものですが、最近の宮城酵母は初代宮城酵母の中から、アルコール耐性が高く酸の生成が少ない株を選抜して得られた。
この会で飲んだ墨廼江のお酒を紹介します。
1.大吟醸 600K
このお酒は兵庫県の特Aの山田錦40%精米の大吟醸です。600Kg仕込みのタンクを4本立てて、その中で最も良い2本だけを選んで造るお酒なので、1200本しか出来ないそうです。
うまみがドンと出るわけではないけど、軽くすっと入ってくる割には余韻がしっかりしていて、余韻が奇麗で上品なのでうれしくなってしまいます。このお酒は寝かせればもっとおいしくなうような気がしました。
後でマスターがとっておきのものをのませてくれるそうです・・・・ 楽しみです。
2.墨廼江 純米吟醸 五百万石、雄町、八反錦
五百万石は福井県産、雄町は岡山産、八反錦は広島県産を使っていて、いずれも精米度は55%で宮城酵母を使っていて、その他の造りはまったく同じだそうです。このお3本はいずれも火入れですが、出る時期が少しずつ違うそうです。
五百万石は口に含むと緩やかな甘みを感じながら旨みがすーっとのびていきます。新潟の淡麗辛口とは違うバランスで、とても良いと思いました。
雄町は口に含むと旨みがすうっと立ち上がったるけど、緩やかなピークです。その後に酸味を感じながら切れていくバランスで、この3本の中では一番特徴があったかな。
八反錦は割に軽い感じで口に広がり、すうっと飲めるお酒で、後で少し辛みを感じるバランスでした。
この3本はまったくお米の違いだけの味わいの差で、確かに違いは判るけど微妙な差であって、お米の特徴をドンと出しているわけではありません。でもこの造りが墨廼江なのでしょうね。
3.特別純米 大辛口
このお酒は麹米が新潟の五百万石60%精米で、掛米が宮城県産の蔵の華60%精米の純米酒です。
このお酒はまさるやさんの提案で夏酒として5月末から販売する辛口のお酒で、辛い酒というよりはドライな酒といったお酒でした。
香りは比較的控えめながら、すっきりとした味わいとキリリとした酸味が効いていて、シャキッとキレる酒です。暑い夏に冷やして飲みたいね。
4.600K 2003年
このお酒がマスタの中村さんが隠していた秘蔵酒の2003年の600Kです。10年前のお酒です.600Kは20年前から始めたそうすが、ラベルは少し変わって来ていますね。
どこで保管していたのでしょうか。ラベルの色に年期を感じます。5本買って最後に澤田さんと飲むために残していたお酒だそうです。でも飲んで驚きました。これは凄い酒です。とろっとした旨みがたちあがってすうっと消えていく酒でした。
この蔵のお酒は香りや味に華やかさはないけど、後味のきれいさがあるので、酒質が高いと思われます。きっと自分の家で熟成させても変質しないお酒だと思うので、チャレンジしてみようかな。
酵母を変えないという点では新政と同じですが、本当の意味の米の違いを知るには良いような気がします。まさにマニアの好む酒ですね。
最後にサーカーで有名な中田英寿が東日本大震災後、墨廼江酒造に行って訪問記録があるのを見つけました。興味のある方は下記のURLを見てください。これはブログではないので専門のスタッフがいると思うな。ワードで造って張り付ければ出来るかも。
http://nakata.net/rnp/area/12203/
こんな洗米スプレーがあるんだ。始めてみました。これは良さそうですね。
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