8月のお盆のころは流石に日本酒の会はほとんどお休みです。でもこちらは暇なもので、何か面白い企画はないかと、日本酒カレンダーをチェックしていたら、南青山で夏の日本酒セミナーがあるのを見つけました。主催はインフィニット酒スクール、場所は表参道の福井県のアンテナショップのふくい南青山291で、しかも水曜日の昼間なら、参加者は少ないだろうと電話で申し込んだらすぐにOKをもらいました。
その後インフィニットはどんな会社かをちょっと調べてみました。この会社は菅田(すがた)ゆうさんが2002年に立ち上げた酒類総合コンサルタントの「インフィニット」で、酒類の流通、教育をする会社のようです。2006年にワインや日本酒、チーズを中心とするお酒と食の専門知識を提供するお酒のカルチャー教室の「インフィニット・酒スクール」を創立しています。
ここでは今回のような多人数(50人くらい)の講演会ではなく、数人対象のカルチャースクールや個人を対象としたレッスンを主体としているようです。
それでは菅田さんはどのような人なのでしょうか。講演された時の菅田さんです。
菅田さんは福井県大野市出身で、初めは㈱三菱レーヨンに入社されましたが、直ぐに退社され、フランスの国立サンキャンタンホテル学校に留学されました。帰国後は日本のフランス料理店、ホテル、酒販店など色々な業務を経験された後、インフィニットを創業されたようです。そして日本ソムリエ協会認定の「ソムリエ」の資格を持っているだけでなく、SSI認定の「きき酒師」の資格を持っています。そして全日本ソムリエ連盟認定の「ソムリエ」の資格も持っているようです。
あれ、日本ソムリエ協(JSA)と全日本ソムリエ連盟(ANSA)はどんな関係があるのでしょか。ちょっと調べてみました。日本ソムリエ協会は一般社団法人で、国際ソムリエ協会に加盟している日本を代表する組織です。
それに対して全日本ソムリエ連盟はNPO法人のFBO(料飲専門家団体連合会)が創設したワインのソムリエ認定機関のようです。FBOはANSAのほか色々な認定機関を創設していて「きき酒師」や「酒匠」などを認定している日本酒サービス研究会・酒匠研究会(SSI)もその一つです。日本酒のソムリエとなるとFBOのSSIしかないようです。
日本ソムリエ協会は1969年に創設した歴史のある組織に対して全日本ソムリエ連盟は1997年に創設した未だ歴史の浅い組織です。でもFBOの守備範囲は広く、ワインばかりでなく日本酒、焼酎、中国酒、チーズ、コーヒー、シガ―など幅広い物を対象にしています。
菅田さんはソムリエの経験を踏まえてワイン・日本酒と食の文化を広めようという思いがあると思われます。ですからSSIの資格を持ちANSAの資格を持つのは当然と言えることかもしれませんね。
これでインフィニット酒スクールと菅田さんの紹介は終わりましょう。早速その日の講演会の内容を簡単に紹介することにします。
講演された場所は南青山にある福井県のアンテナショップの南青山291です。この建物の1階が福井県の特産品を売っているアンテナショップで。2階が会議室になっています。
ちょっと会議室の様子をお見せしましょう。80名は入れそうな会議室でした。
講師は福井県食品加工研究所、地域特産利用研究グループ 主任研究員の久保義人さんです。久保さんは島根大学の農芸化学科を卒業後、福井県のこの研究所にはいられ、日本酒に関する研究、特に清酒酵母の開発とその品質評価の研究をされている方です。
お話しなさったことは酵母の役割とその香味効果のお話でしたが、とてもわかりやすく説明されたので、理解しやすかったです。そんなこと知らなかったよと思ったことだけをご紹介します。
酵母はお米の澱粉をアルコールの原料になる等に変える役割だけと思っていたら、もっと多くの役割があったのです。お米には澱粉のほかたんぱく質や脂肪がありそれを別々の物質に変える役割もあったのです。これが香味にかかわるのです。知らなかったなー。
・ 澱粉 ⇒ ブドウ糖 ⇒ アルコール、有機酸
・ たんぱく質 ⇒ アミノ酸 ⇒ 高級アルコール
・ 脂肪 ⇒ 脂肪酸 ⇒ エステル
酒類の製造に使われる酵母は目的によって違うものを使うことは知っていましたが、清酒用酵母は乳酸に強く低温に強いが、焼酎用の酵母はクエン酸に強く高温に強い。ビール用酵母は麦芽糖を好むとか、ワインは亜硫酸(防腐剤)に強いなどは初めて聞く話でした。
蔵付き酵母だけでは安定した酒造りはできないということで、日本醸造協会で蔵付き酵母を選抜して協会酵母として誰でもが利用できるようになったことは知っていましたが、それで全国の日本酒の品質は向上したけど、全国が均一化するので、各県が独自に独自の酵母を作るようになったようです。その最初が長野県のアルプス酵母であり、今では色々な県で独自の酵母開発がされて、使用されています。特に東北地方が盛んな様な気がします。
福井県ではFK-301、FN-7,FK-4,FK-501,FK-6などがあるそうです。今回はその中でFK-501と協会酵母9号、10号、14号、18号、KZ-4(14号の元の酵母)の6種類の酵母を使って、福井県産の五百万石から作ったお酒の成分測定をして香味成分の比較をしてくれました。その内容は細かくなりすぎるので、詳細は省略しますが概要を簡単に紹介しましょう。
測定した成分はアルコール、グルコース、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、乳酸、酢酸、イソブチルアルコール、イソアミルアルコール、酢酸エチル、酢酸イソアミル、カプロン酸エチルです。
9号酵母の時の各成分の量をを1とした時の比較をしていました。その結果を下記に示します。
・ 10号酵母はグルコースやリンゴ酸やイソブチルアルコールが少ない
・ 14号酵母はグルコースやイソブチルアルコールが少なないが、クエン酸、酢酸が多い。酢酸イソアミルが少ない
・ 18号酵母はコハク酸やイソブチルアルコールが少ないが、クエン酸が多くカプロン酸エチルが非常に多い
・ F501酵母はリンゴ酸が少なく、酢酸イソアミルが多い
という結果が出ました。
高級アルコールのイソブチルアルコールやイソアミルアルコールはこれが多いと重い香りになるそうです。酢酸エチルは多くなるとセメダインの香りになり、少ないと華やかな香りにあるそうです。酢酸イソアミルはバナナやなしの香りで、カプロン酸のエチルは熟したリンゴの香りが出るそうです。
この結果から判断した場合の9号と比較した味わいは次のようにまとめられます
・ 10号酵母はと旨みと香りが少なめだけれども軽快な感じ
・ 14号酵母は酸味が強いが味わいは軽快で香りは少なめ
・ 18号酵母は酸がやや強く味わいは軽快でリンゴ香りが強い
・ F501酵母は酸はやや弱いが香りはバナナ系の香りがたつ
この結果は日本醸造協会で発表している各酵母との特徴とやや違っていて、特に14号は酸が少ないとなっているのに反対の結果になっています。
久保先生の実験結果がおかしいのではなく、お酒の香味は酵母だけでなく、それを使いこなす杜氏の技術の方が影響が大きく、その影響は7割もあると言われた久保先生のお言葉が強く残りました。どうもありがとうございました。
2.セミナー「9号酵母、14号酵母、FK-501酵母の比較テイスティングによる評価と表現、特徴の活かし方、お料理との相性について」
講師はインフィニティ・酒スクール代表の菅田ゆうさんです。
今回は下記に示す3種類のお酒をグラスについてそれをテースティングしながら講義を聞くというスタイルで行われました
1.越前桂月 純米吟醸 山田錦50%精米 9号酵母
2.白龍 純米大吟醸 山田錦50%精米 14号酵母
3.極上真名鶴純米吟醸純米酒 山田錦50%精米 FK-501酵母
菅田さんはこの3種類をテースティングした結果を香りと味わいに分けて細かく表示した評価結果を表示していただきましたが、僕にとっては細かすぎて、理解はできるけど自分には無理という感じを受けました。
その結果を表示するにあたって、先生は表現の表示の基準を持っておられれ、それをスライドで示していただきましたので、それを示紹介します。
ちょっと見難いかもしれませんが、クリックして大きくしてから見てください。左軸は香りの種類であり、横軸が香りの強さで、右に行くと香りが強くなるのですが、単に強さで表わすのでなくて、その表現の仕方を変えているのです。なかなか理解できない点もありますが、言われてみるとそうかもしれないという感じはします。しかし、実際の香りはそれほど強烈なものでないので、どれにあてはめるかは結構難しいと思いました。
先生が評価された結果の要点だけを紹介しますと、
1.9号のお酒 日本酒度+4、酸度1.6、アルコール度15.5
・ 香り: 全体的に穏やか、リンゴなどのフルーツ香とメンソール的な清涼感が穏やかに感じられた後、糖類系の熟成かがほんのりと広がる
・ 味わい: 舌触りは滑らか、やや膨らみはある甘みの中に。差っみがしっかりと広がり、軽やかな中にも味わいに一体感を感じる
2.14号のお酒 日本酒度+3、酸度1.2、アルコール度15.6
・ 香り: 全体的に落ち着いた香りで、わずかにバナナ、溶剤香がほんのり広がる。非常にやさしい香り。
・ 味わい: 舌触りは滑らか。味わいのバランスがとても良く、アタックから心地よさを持続する。後口に酸が少し出るがあまり気にならない
3.F501のお酒 日本酒度0、酸度1.2、アルコール度15.8
・ 香り: フルーティな中に乳製品香が広がる。軽やかで比較的シンプルな特徴
・ 味わい: 白触りは滑らか。ふくよかな甘みがしっかりと広がるが、酸味とのバランスによって軽やかに感じる。また、酸味は決して強く感じることなく、心地よさがありすっきりしている
という評価でした。はっきり言って先生が感じるほどの感受性は僕にはありませんが、なるほどそんな表現をするのかということでは、大変勉強になりました。こんなに細かくチェックすることは僕には無理と、ちょっとへこんだ感じになってしまいましたけど。
僕の経験では香りは嗅いでうちに慣れてきてしまうし、味わいは時間とともに変わってくるように思えるので、僕は未だ酔っていない最初の印象だけを大切にしています。ですから呑んでくると差がわからなくなってしまうのです。ですからソムリエや利き酒師にはなれないなという思いを強くしてしまいました。
最後に福井のアンテナショップの雰囲気を見てもらいましょう。この会の開催中でカウンターで福井のお酒の飲み比べができました。
それから福井の高級酒も一杯ありましたよ。
勿論福井の特産もいっぱい売っていますので、行ってみてください。
以上で終わります。
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