長野酒メッセは昔はグランドプリンスホテル赤坂で行われていましたが、2013年に解体され、去年はグランドプリンスホテル高輪で、今年は品川プリンスホテルで開催されました。去年は佐久地方の蔵を中心に試飲をしてブログに書きましたが、今年は松本地方の蔵のお酒を飲みブログに纏めることとしました。
去年の佐久地方の内容は下記のURLをご覧ください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2015/06/2015-7cf9.html
松本地方の蔵は会場案内の蔵番号の最後の方にありましたので、一番最後の蔵61番から54番まで蔵のお酒を飲むことにしました。結果的には松本地方だけでなくお隣の安曇野や塩尻の蔵も紹介することになりましたので、ご了解ください。
では早速ご紹介に入りますが、東京の長野メッセは何しろ人が多いので、中々簡単には取材出来ませんので、最初から言い訳ばかりで申し訳ありませんが、お許しください
1.EH酒造
EH酒造は安曇野市にある蔵ですが、EH酒造となったのは平成15年(2003年)ですからとても新しい蔵です。それはEH(エクセルヒューマン)株式会社が昔からあった蔵を買収して出来た蔵ですが、従業員も杜氏も変わらない、酒質も昔のままの蔵だそうです。
昔の蔵の名前は亀屋酒造店といい、江戸時代の後期に生まれたそうですが、昭和36年に3つの蔵が合併して「酔園酒造」となったそうです。どうしてEH酒造に買収されたかはよくわかりませんが、経営が苦しかったのではないでしょうか。EH株式会社はどんな会社なのでしょうか。
EH株式会社は大阪の本社を持つ「より良い商品のみを製造し、消費者の皆さまに直接販売する製造小売業」をする会社です。創業は昭和39年で、取り扱っている商品は3000種以上あるそうで、その一例に医療機器マットレス、カステラ、お菓子、サプリメント等色々ありすぎて、中心の商品が何なのかわかりません。でも、今まで良いものを造っている会社をM&Aで買収し、それを育てることで、希少価値のある多品種の物を製造販売をしている会社のようです。社長は「世界で通用するような豊かな人間性を持つ人材、エクセルヒューマンを育てる」といっているそうですから、日本の中にある良い製品を選びだして、育てて世に出していくという中々面白い会社のようです。
EH酒造は買収後、蔵の建て直したり設備の増強をしたりしましたが、その従業員の心を大切にして、完全に手造りで良いお酒を造ることだけをやってきたそうです。現在の生産高は1000石強のようですが、どんなお酒を造っているのでしょうか。
写真の方は常務取締役の飯田純一さんです。もともと酔園の蔵元の息子さんだそうで、蔵のお酒について教えていただきました。杜氏は75歳を超えるベテラン北條勝一さんがやっておられ、EH酒造になって造る量は増えたけれども、昔からの味を大切にし、味があるけど後口に残らないようなお酒を目指しているそうです。そして、昔からの技術を若い人に伝える努力をしているそうです。いいですね。
4合瓶12000円の山田錦30%精米純米大吟醸 どん蔵を飲みましたが、これは単に綺麗だけでなく味わいもあり、さすがという感じです。大吟醸鬼かんを持ってもらいましたが、これは山田錦39%精米のアル添酒ですが綺麗さがあって飲みやすい酒でした。
この蔵は18号系の酵母を多く使っていますが、それほど香りを出さないで、旨味と綺麗さを出すのが上手いようで、なかなかの蔵だと思いました。コスパーを狙うのなら、信濃の国酔園 特別純米1升3000円かな。
2.美寿々(みすず)酒造
この蔵は塩尻にあるくらですが、JRの塩尻駅と洗馬駅の両方から2kmくらい山の方に行った標高750mのところにある蔵です。創業は明治26年ですが、この蔵のお酒を語るにはこの人を紹介しないといけません。
この蔵の4代目の社長兼杜氏の熊谷直二さんです。直二さんは東京農大を卒業され、現在60歳ですから、出羽桜の仲野さんより6つ上のベテラン杜氏です。
僕が初めてお会いしたのは、第1回の長野メッセだと思いますが、それ以来毎年のようにお会いしています。この蔵は大吟醸以外は美山錦を使っていますが、その美山錦の旨さを引き出す腕は天下一品だと思います。
でも遊び心も一杯で何か面白そうな造りを毎年楽しんでいます。今年は本醸造生原酒かな。シャープな感じの中にとろっとした味わいもある良いお酒でした。でも何年たっても生産量は300石と一定です。どうしてと聞いたら、一人で造っているのでこれ以上は無理ですと言われました。
彼の酒はどのお酒を飲んでもおいしいけど、どれか1本を選ぶとしたら純米吟醸無ろ過生かな。美山錦とは思えない旨味甘みが最初に来て、綺麗な酸とともに消えていくバランスです。今年から池袋の升新で扱うようになったそうです。一度飲んでみる価値はあるよ。
山田錦39%の大吟醸は1升5000円しないけど、凄いうまい酒でした。これ東京で売れるよと言ったら、たった600本しか造っていないので出せないそうです。絶対に売れるのに、欲がない人だな・・・・
3.笑亀酒造
この蔵も塩尻市にありますが、塩尻駅から東に2kmほど行った町の中にあります。創業は明治16年ですからそれほど古い蔵ではありません。笑亀と嘉根満というブランドを造っていますが、嘉根満(かねまん)というのは創業の時につけた酒屋の名前のようです。社員4人で生産高300石位の小さな蔵ですが、一昨年秋より中乗さんの杜氏をしていた森川貴之さんが来られてから酒の質が上がったと言われています。
この方が森川杜氏です。僕は森川さんとお会いしたのは去年地酒屋「こだま」さんが企画した「長野県9蔵の蔵元の会」に参加した時が初めてですが、今回お会いした時、最初全く森川さんとは気がつかなかったのです。
その証拠をお見せします。去年の写真はこんな感じでした。メガネをかけているし、髭を伸ばしているので、これ、完全に叔父さんの雰囲気ですよね。今回はずっと若者になっていました。どうしたんでしょうか。
どうしてこの蔵に来たのですかときたら、ここが地元だからと応えてくれましたが、こちらに彼女がいるからではないかと聞いたら、笑っていました。でも結婚して高校生の子供がいるなんて見えませんね。
今回は貴魂という新しいブランドのお酒を試飲しました。このお酒シリーズは味わいの違う4種類の酸味を持つお酒を造ったそうです。お客様にこの酸を違いを楽しんでもらうつもりで、自分の趣味の感覚で造ったそうです。ですから、酒の銘柄に自分の名前の貴と自分の心の魂をつけているとことに気合いを感じますね。
皆さんの評判を聞いて発売していくそうです。4種類の貴魂は色によって分けてありました。
・ 貴魂 赤 純米吟醸 18号酵母
・ 貴魂 白 純米生酛 生酛の酸
・ 貴魂 黒 純米 コハク酸 長野C酵母
・ 貴魂 青 純米 クエン酸
この写真のようにラベルには詳しく酒質が書かれていますが、他のお酒の写真を取るのを忘れてしまいましたので、酒質が良く判らなかったのが残念です。
・ 赤は酸味が後ろ隠れているけど、しっかり感じながら、飲みやすいお酒
・ 白は生酛のしっかりした酸があるけど、味が複雑で食べ物がほしくなるような酸
・ 黒はコハク酸があるので後味に貝の出汁のような苦味があるので、人によっては嫌かな。長野酵母Cは昔のアルプス酵母でイソアミル系なのかもしれません
・ 青はクエン酸が強いので酸っぱいお酒。白麹を使ったのではないかな。
僕は森川さんはチャレンジブルで、腕のあるしっかりした杜氏だと思いました。これからどんな酒を出していくのか楽しみですね。大いに期待しています。
4.亀田屋酒造
この蔵は松本駅から上高地線に沿って3kmほど西に行ったところにあります。創業は明治2年で、初代は亀井半十郎さんでしたが、現在は6代目の竹本祐子さんが当主となっています。
竹本さんは先代の社長の次女で、上智大学を卒業後米国で仕事をするエリート女性でしたが、結婚されたのち28歳の時に蔵の後を継ぐために松本に戻ってきたそうで、38歳の時に社長になられました。その頃は日本酒の消費量が落ちてきて、経営が苦しくなっていたので思い切って蔵の方針を変えたそうです。
この蔵は長野高速道路の松本インターを降りて上高地に向かう道路の近くにあることから、酒瓶を貯蔵していたプレハブ倉庫を壊して観光バス用の駐車場にし、母屋の見学、酒蔵見学、お酒の試飲販売だけでなく、最近は酒造りの体験講座も始め、いわゆる観光酒蔵として消費者に直接お酒を販売する方向にかじを取ったようです。
観光酒蔵をすることにより、消費者と直接対話して色々な要望を知り、リキュールや濁り酒、酒粕を使った石鹸、純米酒を使った美容水など新しい商品の製造販売までするようになったそうです。日本酒の生産量は300石くらいだそうですが、日本酒味はどうなのでしょうか
この方が杜氏をしている清都幸広さんです。東京の蔵で修業をされて方この蔵に入られたと聞いております。
持っていただいたのは秀峰アルプス正宗の大吟醸と純米大吟醸です。大吟醸は山田錦39%精米の18号酵母を使ったお酒で、純米大吟醸は美山錦40%精米の9号系酵母のお酒です。
この二つは味わいがだいぶ違うようで、大吟醸はカプロン酸の綺麗な香りが出ているものの、少しシャープな切れの良いお酒で、純米大吟醸はなめらかですっきりとした味わいでした。
この蔵のお酒は切れ味を大切にした造りをしているようで、大吟醸レベルの酒の味はよく、観光蔵とは思えない洗練された味わいで、関東信越国税局や全国新酒鑑評会で数々の賞を取っているようです。
5.大信州酒造
この蔵の本社は松本市島立にあり、亀田屋酒造店とはとても近いですが、製造蔵は長野市豊野町にあります。ここは長野駅から北しなの線の信濃浅野駅の近くです。随分離れたところにあるのですね。創業は明治21年ですが、今では毎年数々の賞を取っている長野県では有名な蔵の一つとなっています。生産高は1300石位だそうです。
下の写真は右の方が社長の田中隆一さんで左の方が常務取締役製造部長の田中勝巳さんです。兄弟二人で力を合わせてやっていますが、勝巳さんは豊野蔵で杜氏のお仕事をされています。
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この蔵には酒造りのこだわりがありますのでちょっと説明します。それは一言で言うと、自然と対話し、酒と対話し、そして人と対話し、決して逆らわず、静かに調和をとることだそうですが、ちょっと抽象的すぎるので、もうちょっと説明すると以下のようになります。
・ 長野のお米と水と使ってすべての工程を手造りでやること(山田錦は別)
・ 造りの基本は一に蒸し、二に蒸し、三に蒸しで、良い蒸し米から始まる
・ 殆どの酒は無ろ過で低温瓶貯蔵をする
・ 仕込みタンク一本一本の違いを大切に瓶詰するシングルカスクである
こうやって生まれてくる酒に悪いものはないはずですが、飲んでみました。どのお酒もいいバランスで仕上がっていますが、気にいったお酒は2つ。一つは純米大吟醸「手いっぱい」。このお酒は原料米の選抜から精米、麹、醸造、貯蔵に至るまで出来る限り力を尽くして仕上げたの言う意味だそうです。この会場で飲んだ時はちょっと膨らみは足りないしちょっと引っかかる感じでしたので、二カ月後に升新商店で買って飲んでみましたら、全く違った印象でした。軽やかな香りと丸みを持った旨味がゆっくり口の中を広がっていき、綺麗に消えていくお酒でした。勝巳さんが造ったばかりですからまだ膨らんでこないのでしょうと言われたことが良くわかりました。
山田錦35%精米の2年熟成の大吟醸「香月」はとても柔らかく優しい中に綺麗な旨味がゆっくり広がるとてもおいしいお酒でした。4合瓶で5400円しますが、飲んでみたいお酒です。香月にはいろいろな種類があって、価格が大幅に違いますのでご注意を!
この蔵のお酒は基本的には綺麗なお酒が多いですが、口に含んだ時にぱっと広がるのではなく、ゆっくり広がり、お酒のよってその余韻の感じが違うお酒を造る蔵だと思います。最近こういうお酒が少なくなってきていますね。
6.笹井酒造
この蔵は松本市内の島内地区にある蔵で,、松本駅から北に3kmほど行った奈良井川のそばにあります。創業は大正12年ですから比較的若い蔵です。北アルプスの伏流水を使って、地元の契約栽培のお米を使って、すべて400kg以下の小仕込みを行い丁寧はお酒つくりをしている小さな蔵(生産高300石)です。 お酒の銘柄は笹の誉です。
写真の方は蔵元で杜氏の笹井康夫さんです。笹井さんは蔵元の人ですが、次男だったので蔵を継ぐつもりがなかったので、東京農大を出て、事情があって30歳の時蔵に戻ったそうです。蔵に戻ってから愛知の蓬莱泉や岐阜の女城主で修業をしたそうです。彼が杜氏になってからやや甘めのお酒を仕込むようにしているそうです。
でも何か新しいことにチャレンジしています。今年から 純米大吟醸も純米吟醸も特別純米もお米はひとごこちで、精米度を50%にしています。価格は大吟醸が4合瓶で1800円、純米吟醸が1600円、特別純米が1500円です。同じお米でも値段の差をつけらる腕があるのだということなのでしょうか。
もうひとつ面白いお酒を見せてもらいました。同じひとごこちでも農園によって味の違うお酒ができると言うのです。浜農園の純米吟醸と赤羽農園の特別純米では味が違うというのです。この2つのお酒は純米吟醸と特別純米という区別になっていますが、酵母も精米度もおなじなので、同じ味になるはずですが、飲んでみると浜農園の方が旨味を感じ、赤羽農園の方が綺麗でさっぱりした感じでした。
この差がどうして出るかというと、浜農園田圃は砂利質で養分が砂利にしみこみやすいので、米が一所懸命根を張って養分を取ろうとするのに対して、赤羽農園の田圃は粘土質で下に染み込まないので、米が根をあまり張らないで育っているので、味が薄いと説明でしたが、僕にはちょっと信じられません。でも米の差が判るほど、米の味を引き出せる技術があるということは確かではないでしょうか。今後の新しいチャレンジをまた期待しています・・・
7.善哉(よいかな)酒造
この蔵は松本市内の松本城近くにある蔵です。創業は江戸末期らしいですが、昔はこのあたりに多くの造り酒屋があったそうです。でも今では市街地に残る唯一の蔵になったしまったそうです。敷地内に地下30mから噴き出している湧水を「女鳥羽の泉」と名付けて仕込み水として使っているそうですが、この湧水は誰でも汲んでよいので、地元の人が行列をつくって汲みに来ているそうです。
この方が杜氏の根岸則夫さんです。蔵の生産量は200石と非常に小さな蔵ですが、伝統の技をまもって地道に精魂こめて酒造りをしています。昔は社長の穂高さんが杜氏をしていたそうですが、5年ほど前から蔵人であった根岸さんが杜氏をしているそうです。
ここの酒はどのお酒も優しさを感じます。持っていただいたのは善哉上撰(本醸造)ですが、1升1900円の割にはいいお酒です。もう少し後味の綺麗さがあるともっといいのですが。
以上で松本地区の蔵の紹介を終わりますが、実はもう一つ蔵があったのです。それは岩波酒造です。僕も終盤になって酔っぱらったために、通り過ぎてしまったようです。ごめんなさい。いずれ紹介する機会があればと思っています。
今年グランドプリンスホテル赤坂は今は東京ガーデンテラス紀尾井町として今年竣工しましたので、来年はここに戻ってくれると嬉しいな。無理ですか?
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