11月に白金の八芳園の日本料理店の槐樹で第11回目の蔵元さんと日本酒を愉しむ会が開かれました。今回は石川県の菊姫でした。この蔵は日本酒の世界では超有名な蔵ですし、能登杜氏四天王のひとりである農口尚彦さんが杜氏として活躍していた蔵ですので、蔵の名前は良く知ってはいるのですが、恥ずかしながらどんな味のお酒を造る蔵かはあまり理解していなかったので勉強するつもりで参加しました。
蔵からは営業の福岡航也さんが来られて説明されましたが、蔵に来て1年くらいの方なので、あまり詳しい情報を得ることはできませんでしたが、お酒を飲んでみるとその味の特徴はいわゆる今はやりのお酒とは全く違うお酒であることは良くわかりました。
今回飲んだお酒について僕の感想を述べる前に、菊姫はどんな蔵なのかを自分なりにインターネット情報で調べてみたところ、単に昔からの酒の味を守っているだけでなく、最先端の技術と昔ながらの酒つくりの技術を融合させた、新しい形の蔵であり、自分たちの求めている味を明確にした酒造りをしている蔵であることを知りました。
そんなことは良く知っている方も多いと思いますが、僕なりにインターネット情報からどんな蔵であるかをまとめてみることにしました。
菊姫は石川県の白山市鶴北町にある蔵で、創業は安土桃山時代だと言われる歴史のある蔵ですが、菊姫という名前になったのは昭和3年のようです。昭和16年には宮内庁御用達の栄誉を受けるなど順調に発展し、昭和36年に農口杜氏が入社したあと、昭和42年には県内で初めて全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなどいち早く吟醸酒を製造・発売をしていました。
現在の社長の柳達司さんが蔵に戻ったのが昭和50年でしたが、その頃は大手の酒蔵が量産体制を造って攻勢をかけていたので、小さな蔵元(現在の生産量はは3000石)は大変苦しい時代だったようです。彼は大手蔵ができない品質の高さ、味の良さ、販売単価の高さで日本一になろうと決めたそうです。それに向かって 達司さんが実行した方法をまず紹介します。達司さんは業界の異端児といわれる人で、その想いの強さは凄く、歯に衣着せない物言いで恐れられている方だそうですが、それだけにそのやり方は当時としては画期的だったのではないかと思います。
1.マイスター制度の導入
当時は酒つくりは蔵の杜氏が感や経験をもとにすべて決めていたので、蔵元は杜氏に任せるしかなく、杜氏がいなくなったら同じ味を造れなくなる恐れがあったのです。達司さんはそれを解決するために、昭和63年から大学の理工系学部の人を採用し、1年目は酒類総合研究所で研修し、2年目からは酒造りの蔵人として参加するマイスター制度を開始しました。このマイスターが温度センサーやコンピューターを導入して酒つくりのノウハウをデータ化していったのです。その結果、平成12年までの間に金賞を23回受賞する(平成13年からは出品をやめています)ほどになっており、今では杜氏になれる実力を持つ人が10人以上もいるとのことです。農口杜氏が退職されたのが平成9年ですから、現在は昔の杜氏ではないマイスター制度で育った杜氏がお酒造りを管理しているようです。
ノウハウのデータ化で成功した蔵としては獺祭が有名ですが、菊姫のデータ化は獺祭とは少し違うようです。獺祭はデータをマニュアル化して杜氏がいなくても安定したお酒を造るのを目指したのに対して、菊姫の酒つくりはデータを大切にし自動化を図る一方、洗米や浸漬や製麹は手作業で五感を大切にした造りをしているようです。ですから五感と科学的知識の両方をバランスよく身けることをねらいとし、そのような人材がいることが菊姫の強みになっているそうです。
2.吉川産の山田錦に特化
達司さんが高品質で販売単価の高さを狙うためには、原料となる酒造好適米を最も品質の高い山田錦を使うことを考えました。山田錦の中でも品質の高さで有名なのは兵庫県の特A地区の山田錦です。その中でも最高ランクに位置する特AAA地区に指定されている兵庫県三木市吉川(よかわ)町の山田錦を入手することに成功しました。それは簡単なことではありませんでした。菊姫はこの地区に足しげく通いつめて、吉川町の7つの集落と「姫を語る会」を造り、農家と蔵元が一緒になって日本一の山田錦を造る環境を造り上げ、現在では吉川町の全生産量の約1/4に相当する1万俵(600トン)を毎年確保しているそうです。
全量山田錦を使っている獺祭の新工場の最大可能生産量は5万石で、その時は必要な山田錦は20万俵と言われていますが、現在は8万俵を購入しているようです。でも兵庫県の特Aの山田錦を増量することができないので、他の地の山田錦の生産量を増やして対応しているようです。ですから特Aの山田錦を掛米に使用する量は確保できないはずで、そういう意味では菊姫の山田錦の使い方とは全く違うものと思われます。
3.貯蔵設備の充実
菊姫は昔からそれぞれのお酒に合った熟成期間を設定して管理・出荷しています。具体的には吟醸酒のように精米度の高いお酒は3年以上の熟成をし、精米度の低い純米酒や普通酒は1-2年の熟成にしています。それは味が乗るまで熟成させるためですが、そのためには広い貯蔵スペースがいるのと、資金の回収が遅れるので、普通の蔵ではやっていません。
菊姫では普通の蔵では考えられない広さの貯蔵庫を持っています。平成蔵では1-2階の吹き抜けの部屋や3-4階にも貯蔵庫を持っているだけでなく、平成10年に新設した八幡精米工場には10年後を見越して、1400坪の貯蔵スペースを用意しているそうです。凄いことですね・・・・・下の写真が新精米工場です。
菊姫には昔から「よそに精米を頼むくらいなら酒造りをやめろ」という家訓があるそうです。それは精米は酒つくりの中で大変重要な工程だと認識しているからです。精米するときに米が割れないように丁寧に扱う必要があり、そのためには米の中の水分を10%にする制御した上で精米中の米の温度が上がらないような工夫が必要で、コンピューターで独自の制御をする精米機を使っているそうです。
さらに精米したお米の温度を下げ、水分を10%から13~14%に戻す「枯らし」作業を重要視しているので、外部に精米を依頼することないそうです。そのために平成10年に蔵から車で5分のところにある八幡に精米用の新工場を設立し、8基の精米機を稼働させています。大したものですね・・・・
下の写真が新工場の8基の精米機です
菊姫には明治蔵、昭和蔵、平成蔵の3つの蔵があり、別々の杜氏が管理しています。蔵の名前は造られた時代を反映しているものと思われますが、別々の機能を持っています。純米酒と普通酒は昭和蔵で製造し、吟醸酒や特約店限定流通酒は明治蔵と平成蔵で製造しています。ですから昭和蔵は大型仕込みの蔵で、3トンタンクが26本あるそうです。明治蔵は平成3年に大改装をし、平成蔵は平成7年に竣工した最新鋭工場です。平成蔵は7階建てで、釜場が最上階にあり、6階が麹室、5階が仕込み部屋(1トン仕込み)と酒母室で、3-4階は貯蔵室、1階に吟醸用の4台の槽が並んでいるそうです。そのほか大手蔵のような研究室も完備していて、-85℃で各種の酵母が保存できるようです。
この写真が本社と平成蔵の写真です。ビルです。
以上が達司さんが行った菊姫の改革の大筋ですが、肝心のお酒の味はどんなものを狙ったのでしょうか。達司さんの言葉によると、菊姫の酒は基本的には労働者の酒で、エネルギー補給のために飲むアテのいらないお酒だそうです。といってもわかりませんよね。やっぱり飲んでみないとわからないということなので、そろそろこの会で飲んだお酒を紹介します。菊姫のお酒はほとんどが7-8℃で1年以上の熟成酒ですから、少し黄色がかったいわゆる黄金色をしています。下の写真でわかるでしょう。また熟成酒はすべて2回火入れしているそうです。
写真を1本ずつ取るのを忘れたので、菊姫のホームページの商品紹介の写真をお借りしました。また会場ではお酒のスペックのお話はほとんどなかったので、これもホームページからお借りしました。日本酒度や酸度は基本的には公開されていませんが、販売店が公開しているもので、その精度は不明ですので、参考程度に見てください。
1.大吟醸 菊姫
精米歩合:50%
酒母:速醸 日本酒度+5 酸度1.2
熟成年数:5年以上
アルコール度数:17~18度
販売価格(税込):1升12528円
菊姫にはこの上のハイスペックには、吟、黒吟、菊理媛がありますが、このお酒は標準的大吟醸に位置しています。でも精米が50%でこの価格はかなりの高価格です。
飲んでみると、熟成の香りはしますが、米の旨味がきちっと出ているけどふくらみが綺麗で丸があって品があります。このお酒は温度が上がってくるとずっと広がってくるので、冷たいとその良さがわかりません。
2.純米酒 菊姫 先一杯
精米歩合:65%
酒母:速醸 日本酒度0、酸度1.3
熟成年数:1年程度
アルコール度数:14~15度
販売価格(税込):2592円
このお酒はアルコール度数を下げて、飲みやすくしているお酒です。熟成期間が短いので、熟成香はありますがやや少なくなっています。
飲んでみますと米のうまみはしっかり感じますが、スウット飲めてしまうお酒でした。僕にはちょっと物足りなかったかな。
3.普通酒 菊姫 菊
精米歩合:70%
酒母:山廃 日本酒度1.0、 酸度1.3
熟成年数:1-2年(複数年ブレンド)
アルコール度数:15~16度
販売価格(税込):2160円
このお酒は普通酒でですが、それは精米度が70%で醸造用アルコールが添加されているので、普通酒と呼んでいるものと思われます。ですからアルコール添加が10%以上あるわけではなさそうです。
飲んでみると熟成の香りはありますが、ほんのり甘さを感じてそれほどアルコール感がしないので、優しいお酒のように感じました。お燗に向いているかな。
4.純米酒 菊姫 ひやおろし
精米歩合:65%
酒母:速醸 スペック不明
熟成年数:半年以上~1年
アルコール度数:17~18度
販売価格(税込):4000円程度
このひやおろしは毎年酒質が違うようで、価格もスペックも年によって違うようです。このことは会の中で説明してもらわなければ、わかりません。
飲んでみると熟成の香りはしないでソフトな口当たりで、口に含むと初めからまろやかな旨味が、ぱっと広がってくるので、熟成酒とは違った楽しみがあるお酒でした。
5.米焼酎 加賀の露
熟成年数:3-4年(複数ブレンド)
アルコール度数:25~26度
販売価格(税込):2700円
蒸留法や熟成年数の違う様々な原酒(常圧の濃さ、減圧の素直さ、樽貯蔵の風味)を絶妙なバランスでブレンドし、 米焼酎らしい旨味を最大限に引き出すための「旨さの黄金比」を見つけ出して造った焼酎のようです。
福岡さんの説明だと、山田錦を精米してできた削りかすの粉を使って造っているとの説明でしたが、麹の造り方は随分違うのでしょうね。
飲んでみると普通の焼酎とは香りも違うし、黒麹の焼酎は甘みを感じるけど旨味はあまり感じないのに対して、普通の焼酎では感じない旨味を感じます。そして焼酎の持つ辛味も少ないように思えました。
6.純米酒 菊姫 山廃純米
精米歩合:70%
酒母:山廃 日本酒度+0、酸度2.3
熟成年数:1-2年(複数年ブレンド)
アルコール度数:16~17度
販売価格(税込):3024円
このお酒はお燗酒として出ましたが、飲んでみるとかなりの酸味を感じます。最初に熟成香を感じるのですが、口に含むとそれほど感じなくなります。旨味が強いわけではないが、優しい旨味を感じたかと思うと、後から柔らかい酸ゆっくりと出てくるお酒で、ちょっとワイン的なバランスのような気がしました。お燗もいいのですが、僕はこのお酒は常温が一番いいように思えました。
以上で飲んだお酒の紹介は終わりますが、菊姫のお酒は旨味がガツンとくるわけではないが、しっかりした旨味を柔らかく出していて、全体的には品があるように思えました。でも僕にとっては熟成香がどうしても気になります。もう少し熟成温度を下げて、熟成香の少ないお酒にしてもらうと嬉しい気がします。いずれにしても今流行りのバランスのお酒ではありません。うちの酒はこの酒が好きな人に飲んでもらえれば良いので、味を変えるつもりはないと言っているように思えました。でも最近はIWCの初代チャンピョンになった鶴の里もあるようなので、ちょっと飲んでみたかったな
最後に高橋料理長のお料理をお見せします。下の写真が高橋料理長です。菊姫のお酒にどんな料理に合わせるかは、少し悩んだそうですが、菊姫はちょっと軽い感じがしても、しっかりした旨味があるので、意外にどんな料理にも合せやすいと感じたそうです。
以下がお料理の写真です。全部で7品でした。
前菜:塩鮪、チーズ、堅豆腐 おまかせ寿司
丸干し、蕪寿司 辛子など 昆布締め、あぶり寿司
かぶと鰤 加賀蓮根と磯辺揚げ
自家製燻製豆腐
柿の酒粕グラタン 牛タン旨煮、なめこ
包み蒸し ねぎま
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