2月の連休の最初の2日間を使って、秋田の蔵2件、山形の蔵1件の蔵見学をすることを思い立ち、升新商店の山崎さんの伝手で実現することができました。
最初の蔵は春霞の栗林酒造店です。蔵は秋田県仙北郡美郷町六郷にあります。六郷は名水百選にも選ばれた六郷の湧き水群で有名なところですが、湧き水で名前が付いている場所は栗林酒造店の前の通りより西側ばかりです。ですから栗林酒造より東の山側には湧き水はありません。その理由は聞きませんでしたが、何か理由はあるのでしょう。この地区はお米の産地でもあることから、昔から酒つくりの盛んな処で、江戸時代には20もの蔵があったそうですが、今では3つの蔵がしか残っていません。
僕たちは大曲まで秋田新幹線を使い、そこからタクシーで蔵に向かいましたが、タクシーの運転手が場所を知らなかったので、迷いましたが30分くらいで到着しました。蔵の入り口の写真です。カメラの絞りを間違えたので、変な写真になりましたが、看板には春霞平和醸造元栗林本店と書いてありました
創業は明治7年ですが、創業者は5代目の栗林直治さんだそうで、それまでは別の商売をされていたのでしょうね。創業時代は泉川という銘柄だったそうで、春霞になったのは定かでないそうです。春霞という名は謡曲「羽衣」一節にある「春霞たなびき・・・・」から取ったらしいですが、春に現れる霞はもうすぐ春ですよという意味があるそうで、また霞にはお酒という意味もあるので、こにあたりから考えられたのではと思われます、優しい雰囲気のある言葉ですね・・・・
蔵は「一本蔵」と呼ばれる仕込み蔵であり、昭和初期に建てられ、トンネルように一直線に続きその全長は100メートルにもなるそうです。入口から「蒸し場」、「麹室」、「仕込み場」、「貯蔵庫」と続き、その配置は酒造りの導線に沿っているので、酒つくりに適していると思われます。昔は生産量は1500石あったそうですが、現在は特定名称酒を主体としたつくりで、600石弱になっているそうです。
<栗林直章さんについて>
栗林さんは7代目の蔵元ですが、正確にはわかりませんが、たぶん1970年の生まれで、今年で46歳になるのではと思います。栗林さんのお話では1995年に蔵に入って酒造りを亀山杜氏の仕事を手伝いながらしてきたそうで、もう21年の酒つくりの経験をしておられます。そして、亀山杜氏が辞められた2009年から蔵元杜氏として現在に至っています。
杜氏になる前から酒米つくりには心を割いておられ、1998年ころから地元の美郷町の農家と契約栽培を始め、2004年には美郷酒米研究会を立ち上げて、美山錦、美郷錦、酒こまちの酒米を契約栽培できるようになったそうです。
杜氏になってからはNEXT5や秋田にごりの会に参画され、秋田の地酒普及に努力されています。
<亀山精司杜氏と亀山酵母>
亀山杜氏は地元の六郷出身で、農業をやりながら、酒の造りの時期だけでなく、夏場も蔵の仕事のお手伝いをするなど、60年近くも栗林酒造一本で勤めてきた方です。昭和41年から杜氏となり、県内では「九号酵母の亀山」とまで言われ、その酵母で仕込んだ大吟醸は全国新酒鑑評会で10度の金賞を受賞した、まさに名杜氏です。
酒蔵には古くからたくさんの微生物が住みついています。これらの微生物の中からお酒の醸造に適した酵母を見つけよう!というプロジェクトが秋田県で各蔵と秋田醸造試験場との共同で平成22年から行われました。そして平成23年度、プロジェクトの第一号として、春霞の酒蔵から優良な酵母が選ばれ、3年前に実用化されました。それが「亀山酵母」です。
春霞の土蔵(明治時代に建てられた仕込み蔵)に供えられた相撲勧進札(昭和8年)の周りから見つかったそうです。蔵見学したときにはこのお札は取り去られて無かったですが、屋根下にあるお札は誰も掃除しなかったので、たまたま酵母が残っていたということらしいです。このお札の写真を山本洋子さんのブログのマクロビーノライフから拝借して、色修正しましたら、きれいに見えるようになりましたので、ご覧ください。
今回見つかった「亀山酵母」がいつ頃から蔵に棲みついたのかはわかりませんが、60年の酒造りのどこかで、亀山杜氏が残してくれた酵母なのではと想像して、栗林さんが亀山酵母と名付けたそうです。栗林さんの優しさが感じられますね。
<NEXT5の栗林さん>
NEXT5が結成されたのは2010年のことです。このチームが結成された切っ掛けは2010年のDancyuの3月号に白瀑の山本さんが紹介された時、記事の後ろの方で広島の「魂志会」という酒蔵の経営者6人が集まる会を見つけて、秋田でこんな会を造れないかなとということで、ゆきの美人の小林さんに相談したそうです。そのタイミングで、一緒にやれそうな人として、新政の佐藤さん、春霞の栗林さん、一白水成の渡邉さんに声をかけて結成されたそうです。
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ちなみに「魂志会」は、相原酒造、金光酒造、天宝一、今田酒造本店、宝剣酒造、美和桜酒造の蔵元の集まりのようですが、今ではNEXT5の方が知名度が高いですね。
NEXT5の凄いのは蔵元杜氏の5人が集まって、毎年新しい企画の酒を皆で協力して、どこかの蔵で実際にお酒を造っていることだと思います。単に新しいお酒を造るという意味だけでなく、お互いの技術を出し合って切磋琢磨する環境ができたことが素晴らしいとおもいます。これにより、各蔵とも何か新しいものを出すかも知れないという予感が生まれてきます。栗林さんもちょうど自分が杜氏として歩き始めたばかりの時でしたから、この出会いがなかったら、全く違う蔵になっていたかもしれないと言われたのが印象的でした。
この5人は個性が強く、纏まるのは大変なメンバーですが、栗林さんは「NEXT5の良心」と言われるほど人が良くて、はちゃちゃめちゃな他のメンバーのまとめ役として頑張っているそうです。LIKE TIMESに書かれた5人のお人柄を紹介しますね。噂ではもっと過激な表現もあるようです。
僕がNEXT5をご紹介した記事の時とちょっと表現が変わってきていますが、栗林さんの評価は変わっていません。http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2010/12/post-a162.html
・ ゆきの美人 小林忠彦 「先導者」
・ 白爆 山本友文 「切り込み隊長」
・ 新政 佐藤祐輔 「日本酒業界のスチーブ・ジョブス」
・ 一白水成 渡邊康衛 「最終兵器」
・ 春霞 栗林直章 「良心者」
誰がこのように評価したかはわかりませんが、栗林さんの良心がNEXT5を支えているのは事実でしょう。
それでは次に蔵見学の紹介をします。
<玄関>
ここが母屋と蔵に入る入口です。杉玉が見えます。
ここを入ると母屋がありここから蔵に入ります。ここが蔵に入る入口で、栗林社長に案内してもらいましたので、ツーっショットの写真を取りました。
<原料米について>
ここでは5種類の原料米を使っているそうです。県外から購入している山田錦と雄町、地元の契約栽培から購入している美郷錦、美山錦、あきた酒こまちです。今特に力を入れているのが美郷錦で全体の半分に当たるそうです。美郷錦は秋田県で開発されたお米で山田錦と美山錦を親とする酒造好適米です。美郷錦は血統は良いけど、あきた酒こまちの開発の途中で生まれたお米で、ちょっと扱いにくいところもあって、一時使われなくなったそうです。でもこの蔵ではメインのお米として使用しているそうで、県内では一番使っているからかもしれないとのことでした。
美郷錦は55%以上精米しないとさばきが悪いそうで、60%以上だとちょっと粘々して団子になりやすい傾向があるそうですが、この蔵では上手く使っているようです。
<洗米>
洗米は今では多くの蔵が使っているバッチ・連続 兼用のウッドソンの洗米機でした。すべてのお米をこれで洗米するそうですが、割れが少なく作業が楽なので、大変重宝しているそうです。麹米は単独の10kg洗米で、掛米は量が多いので2段連続式で使用しているそうです。
ちょっとごちゃごちゃしていますが、床はきれいにしていました。
<蒸し場>
蒸器は和釜ではなく普通の甑でした。スチームでお湯を沸かしてそのスチームで蒸していくのですが、上部にはスーパーヒータの蛇管が付いていて、乾燥蒸気にして使用できるそうですが、お米の量が多い時しか使わないようです。最大処理量は800KGだそうです。
<麹室>
麹室として独立した部屋ができていました。内部は木造ですが、杉造りでなく合板造りの簡単な部屋で1室だけなので、毎日仕込むのではなく1日おきの仕込で調整しているそうです。出麹の部屋がないので、隣に出麹の部屋を造ったそうです。昔は2階で曝していたのですが、湿気を吸うので、新設したそうです。出麹の温度は42℃から44℃とちょっと高めのようです。色々な事情があるのですね。
<酒母室>
酒母室は特に空調はしていないそうで、通常で20℃くらいだそうです。この蔵の酵母は9号酵母と亀山酵母だけを使用しているそうです。一時6号酵母を使ったけど、今後使う予定はないそうです。
9号酵母といっても熊本酵母のKA-4の泡あり酵母を使っているそうです。泡なし酵母の方が管理しやすいけど、泡あり酵母の方が進み具合を目で確認できるから良いそうです。これも亀山杜氏からの伝統なのでしょう。
<仕込蔵>
仕込みタンクのある部屋は完全リノリウム塗装のきれいな部屋にありました。左側に900kg仕込みのサーマルタンクが並んでいました。
左側には500kg仕込みの開放タンクが並んでいまして、明日搾る美郷錦35%の純米大吟醸が入っていました。
ちょっと舐めさせてもらったけど、とろみ感のある美味しいお酒でした。販売されたらすぐ買わなくては。酵母は亀山酵母ですが、この酵母はカプが3ppm、イソエチが2ppmと両方をバランスよく出す酵母だそうです。
美郷錦の35%磨きは初めてだそうです。去年新政が美郷錦30%で金賞を取ったので、チャレンジしてみたそうです。金賞が取れると良いですね。
<搾り>
搾りは薮田を使用していますが、搾ったお酒を2-3週間貯蔵するためのサーマルタンクが置いてありました。900kg仕込みだと1日で搾り、1500kg仕込みだと2日で搾るそうです。
これが一時貯蔵のサーマルタンクです
<槽搾り>
木製の槽もありましたが、今は使用していないそうで処分するそうです。
<冷蔵庫>
貯蔵庫は一本蔵の奥にあって、32坪の6℃の冷蔵庫と、10℃の冷蔵庫と生酒用のー5℃の冷蔵庫をもっているそうです。
<検査室>
ここは製品の検査をする部屋ではなくて、昔は国税局のお役人が検査をする時に使用した部屋だそうです。とても趣がありますね。最近は1年に1回くらいの査察だそうです。
<蔵の飾り>
蔵の壁に綺麗なものを見つけました。栗の花ではないですかとお聞きしたけど、今まで気にしたこともなかったので、わかりませんとのことでした。
<栗の木と仕込み水>
蔵の奥に栗林がありました。右側に3-4本あるそうです。ここの地下30mの井戸を掘って仕込み水にしているそうです。湧水は地表の浅いところを流れているので、水量を確保するために深井戸を掘ったそうです。
秋はどんな状態になるかなと思って調べてみたらインターネット上にありました。こんな感じです。きれいですね。
以上で蔵見学の紹介を終わります。栗林さんからの説明で感じたことは、酒つくりは決して無理をせず、亀山杜氏の伝統を大切にし、でもその時代を的確につかんで、着実な酒造りをしているように感じました。これが春霞の良心であり、栗林さんの優しさの表れだと思いました。
最後に再び栗林さんとのツーショットをお見せしましょう。
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