このスクールも7回目となり、もう一度香りの確認をすることになりました。日本酒の香りには元となる成分があることを勉強してきましたのでそれを再整理します。
① 原料由来の成分 (蒸米や麹の香り・ミネラルの味わい)
② エチルアルコールと炭酸ガス (糖の代謝で出来るエチルアルコールと炭酸ガスでアルコールの刺激と香りの元となっている)
③ 有機酸 (糖が代謝する過程で出てくる酸で、乳酸、リンゴ酸、コハク酸、クエン酸など、酸味の元となっている)
④ アセトアルデヒド (糖の代謝過程で出来るピルビン酸から生成され、青々しい香りがするが揮発性が高く、時間とともに減少する)
⑤ カプロン酸エチル (糖のアルコール分解経路でピルビン酸からアセチルCoAを介してカプロン酸を形成し、その後エステル化してカプロン酸エチルになる。リンゴやメロンの香りと言われている)
⑥ 高級アルコール (米の中の蛋白質がアミノ酸となり、このアミノ酸がイソアミルアルコールやイソプロピルアルコールやイソブチルアルコールなどの高級アルコールとなる。マジックインクのような香りで、炭素数が多くなると蝋のような香りとなる)
⑦ 酢酸イソアミル・酢酸エチル (アミノ酸の分解経路でイソアミルアルコールのエステル化により、酢酸と結合して酢酸イソアミルと酢酸エチルを生成する。酢酸イソアミルはバナナや洋ナシの香りで、酢酸エチルはセメダインの香りがする)
⑧ 各種脂肪酸エステル (米の中の脂質が脂肪酸となり、各種アルコールと結合して脂肪酸エステルを生成する。香りはサラダ油や樹脂のような香りだが、高級アルコールと香りと区別がしにくい)
⑨ フラノン類 (温度を上げる火入れや貯蔵、熟成では必ずフラノン類が生成する。フラノンが多くなるとカラメルや醤油の香りがするが、その量が少ないと老香(ひねか)と言われることもある。)
日本酒の香り成分にはそのほか、オフフレーバーと言われる4ビニルグアヤコール(4VG)やジアセチルやイソバレルアルデヒドなどが醸造過程で発生することがあるようですが、菅田先生のお話では、正常な醸造工程で出来る香りは上述した9つの成分だけを考えればいいそうです。
①や⑥や⑧は原料中に元となる成分がどのくらいあるかによって変わってくる。精米度が高くなれば蛋白質や脂質は減少するので、それに関連した香りも減少してきます。
③や⑤や⑦は酵母の特質によって出やすい成分が決まってくるので、どんな酵母を使っているかによりその香りが想像できますが、発酵のやり方によっても変化するので注意が必要です。またリンゴ酸やコハク酸、クエン酸も酵母の特性と非常に関係が深いようです。
④のアセトアルデヒドはお酒ができたての時に多く含まれますので、生酒や搾りだてには多く含まれますが、揮発性が高いので時間の経過や火入れで減少します。1回火入れか2回火入れ化はアセトアルデヒドの量の違いとフラノン類の量の違いで見分けることができるそうです。また熟成するとアセトアルデヒドは減少しフラノンが増大しますが、特に生酒は熟成速度が速いので熟成温度には注意が必要です。生酒の熟成を抑えるためにはー5℃以下で貯蔵する必要があります。
以上で日本酒の香りの成分の説明を終わりますが、実際にどんな香なのかを嗅いでみないと実感できませんね。日本酒中の香りはいろいろな成分が混じっているので、なかなか特定できません。菅田先生は独自のルートで香り成分のサンプルを集めて持っておられます。今回はそのサンプルを実際に嗅いで見て、本に記述されている香りとの違いを勉強することになりました。
最初のサンプルを見てください。
1.メターノール:ほとんど香りはしません。実際には日本酒の中にはほとんど含まれていません。
2.エタノール:消毒用のアルコールそのもので、シンプルな清涼感のある香りです。
3.n-プロパノール:ツンとした香りでそんなに油ぽくありません。
4.イソアミルアルコール:まさにマジックインクの香りです。
5.n-ヘキサノール:油っぽい重たい香りがしました。炭素数が6のアルコールでこれ以上炭素数が増えると蝋の香りのようになるようです。
次はいわゆる日本酒の香気成分です
1.カプロン酸エチル:メロンやリンゴの香りと言われますが、濃度が高くなるとツンとした香りになります。
2.酢酸イソアミル:確かにバナナや洋ナシの香りですが、スッとした香りです。日本酒の場合酢酸エチルが同時に出ることが多いので、それで判断するとわかりやすいです
3.酢酸エチル:まさしくセメダインの香りでした
次はフラノンと原料由来の香りです
1.フラノン類:確かにカラメルの香りや醤油の香りと言えますが、紹興酒や豆の香りとも言えますが。濃度によって違うので、表現が難しいです。
2.白米:お米の香りとか乾いた粉の香りがします。
3.麹(酸化):麹の香りですが蝋の香りがしました。麹が酸化すると蝋臭が出るそうです。デンプン、蛋白質、脂質は酸化すると蝋臭が出るからです。
以上がサンプルの香りですが、医薬品のアセトアルデヒドと乳酸を嗅いでみました。
アセトアルデヒド:とても強い香りでふたを開けただけで、部屋中に香りが充満するほどです。でもいやな香りでなく清涼感のある青々しい香りでした。アセトアルデヒドはアルコールが酸化した場合も発生するので熟成してもアセトアルデヒドが出るけど、フラノンに邪魔されてあまり感じないそうです。
乳酸:乳酸の香りは濃い場合はヨーグルトの香りがするそうですが、薄い場合は僕にかあまりはっきりわかりませんでした。
イソ吉草酸:少し青臭い熟成の香りであるけどいわゆる老香には感じませんでした。生ひね香だそうです。
それではいつものように試飲をいたしましたので、紹介します
1.福祝 夏の純吟 山田錦・五百万石50-60%精米
Alc度16、日本酒度-、酸度-、AA度- 酵母-
2.越乃寒梅 純米大吟醸 山田錦50%精米 火入れ
Alc度16-17、日本酒度+4、酸度-、酵母-
3.悦凱陣 手造り純米酒 オオセト60%精米
Alc度15-16、日本酒度+8、酸度1.6、酵母熊本9号
4.写楽 純米酒 夢の香60%精米 1回火入れ
Alc度16、日本酒度+2、酸度1.4、酵母 F7-01
まず例によって外観を見てみます
外観を見ると2番だけが透明なので、活性炭ろ過していると思われます。3番は少し色がついてるので熟成がかかっているようです。2-4-1-3の順番で色が濃くなっていました。
1.福祝 夏の純吟 山田錦・五百万石50-60%精米
さわやかな香りのアセトアルデヒドがあるので、生ではないかと思われます。カプの香りもイソエチの香りもあって、カプもイソエチも強く出ているのでブレンドと思われます。味わってみると後味にコハク酸の苦みがあるので、イソエチ系の酵母を使ったことが確認されます。アセトアルデヒドと乳酸と高級アルコールを同時に感じる複雑な味があるようなので、夏吟にするなら酵母はシングルにしたほうがいいと先生は言われました。
2.越乃寒梅 純米大吟醸 山田錦50%精米
アセトアルデヒドの香りがなく、ポテッとした香りがあり、2回火入れであることが判ります。香りがふわーとしていて、ツンとした香りでないので、18号ではなく9号酵母だと思われます。熟成のフラノンが出たので活性炭ろ過していて除去していますが、高級アルコールはとれていないので、その高級アルコールの香りが気になります。味を見ると、アタックは柔らかく良いのですが、中盤からアルコールの辛さと刺激が強く出てくるのが気になります。
3.悦凱陣 手造り純米酒 オオセト60%精米
ツンとした香りと穀物的な香りがあるのはお米からくるものと思われます。オオセトは一般米なので蛋白質が多く含まれます。したがって、高級アルコールが多くなるのは仕方がないと思われます。アタックのボリュウム感が少なく、すぐ酸が上がってきて、渋い感じするのは加水量が少ないからと思われます。甘みと旨みをもう少しあったほうがいいように思えました。
4.写楽 純米酒 夢の香60%精米 1回火入れ
酢酸エチルの香りが強すぎ感じがします。うまみはよく出しているが、剥ぎだした後アルコール感が強く、口の中でピリピリ感が感じます。そして後味にコハク酸の苦みが残るけどそんなに強くはありません。このピリピリ感を抑えることができれば、もっと素晴らしいお酒になると思われます。
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