一般社団法人酒類ビジネス推進協会が企画主催する会で、「第3回応援しよう頑張る蔵のおいしいお酒の会」に参加してきました。酒類ビジネス推進協会とは随分仰々しい名前のようですが、簡単に言えば中小の酒類製造業者や酒類小売業者のビジネスを支援して活性化し、消費者にもそれを伝えることにより、豊かな生活や文化を広げていこうというもののようです。このコンセプトは大変すばらしいとは思いますが、そう簡単なことでないと思います。でも若い人たちが中心になっててやっているので、大いに期待したいものです。
日本酒の蔵元をお呼びする会として、第1回目は去年の5月に千葉県の小泉酒造の蔵元をお呼びして、「知られていない蔵のおいしいお酒の会」という名で開催されました。そのとき初めて参加したのですが、その題名にぴったりとした蔵を選んだねと感心し、その時の様子は下記のブログにまとめています。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2016/06/post-e160.html
蔵元をお呼びする会は最近は頻繁に行われているようですが、この会はちょっと他の会とは違いがあります。会を開く前に必ず蔵を訪問し、きちっと勉強したのちに蔵の紹介の冊子を自分で作成して参加者に配布していること、蔵元さんにきちっとお話をしていただいて勉強しよういう姿があるのがいいなと思ったので、次からも参加しようと思ったのですが、第2回目の田村酒造の会は他のイベントと重なったので、参加できませんでした。でも東京のお金持ちの蔵の田村酒造を選んだにはちょっと疑問でしたね。でも田村酒造のすごいところが紹介できればそれはいいことだと思います。
今回は千葉県の東薫酒造でしたが、題名が最初とはちょっと変わって「頑張る蔵の美味しい酒の会」となっていました。確かに東薫酒造は昔から有名な南部杜氏がお酒を造っていて、その代表銘柄の叶はおいしいお酒として有名になった蔵ですが、知られていない蔵とは言えないので、題名を変えたのでしょう。僕としては最近あまり東薫酒造のお酒を飲むチャンスがなかったので、ぜひ飲んでみてみたいと思ったので、すぐに申し込みました。驚いたのは杜氏の及川恒夫さんだけでなく、社長の徳永伸一郎とのそろい踏みの参加だったことです。これは代表理事の宮坂さんの熱意の賜物でしょうね。
下の写真尾左の方が及川杜氏で、右の方が徳永社長です。
今回は西新橋の日本酒原価蔵の極で3月末に行われました。この会場は初めてでしたが、講演付きの立食パーティルームとしては参加人数の割には少し狭い夜泣きがしました。下の写真がその時のものです。すごい混雑ですね。
参加費が4000円はこのような会としては安いほうですが、とても心のこもった企画だと思うので、会費を6000円くらいに上げても、もう少しゆったりした場所を選んだほうが良いと思います。それにマイクがほしいですね。持ち運びの簡単なマイクスピーカセットくらいは協会で持っていてもいいように思います。音質が良くて小型で安いものがありますよ。会場選びは大変だとは思いますが、良い場所を見つけることも重要なことだと思います。
このような会がもっと育ってもらいたい気持ちが強いので、敢えて苦言を申し上げてしまいましたが、参考にいていただければありがたいと思っております。それでは早速蔵の紹介をしたいと思います。
<蔵の紹介>
この蔵は千葉県香取市佐原にありますが、江戸への物資運搬の拠点として栄えた場所です。それは江戸時代の利根川の東遷事業によって、東北の物資が利根川を遡ってから江戸川を下って江戸に運ばれることになったからです。そして近くに香取神社もあり人が多く集まる場所であったことやお酒に適した良い水があったことからから、江戸に供給する酒の製造が盛んだったようで、千石を越る生産量を誇る蔵が2件あったそうで、その一つが江戸時代に日本地図を完成させた伊能忠敬の実家の伊能家だったそうです。
東薫酒酒造を創業したのは石毛卯兵衛氏ですが、伊能家の蔵で酒造りを学び酒造りの権利を得て1825年に創業したそうです。ですから現在まで約200年弱の歴史のある蔵ですが、残念ながら昔は35蔵もあった酒蔵は現在では東薫酒造と馬場本店酒造の2つになっているそうです。現在の生産量は1000石に満たない量だそうですが、経営は結構苦しかったのではないかと思われます。というのは現在の社長は徳永伸一郎さんですが、ちょっと前までは太田健治郎さんが社長をされていました。お二人とも他社の社長をやられている方のようで、詳しいことはわかりませんが、経営者が変わって、経営の立て直しが行われているように感じました。
でも東薫と言えば及川杜氏の名前が有名で、この蔵のお酒造りを長年やってきた方です。及川杜氏は茨木県出身ですが、20歳の時に杜氏を目指し。宮城県の石巻にある蔵で13年間修業をし、その時浦霞の平の杜氏に薫陶を受け実力を付けた後、富山県の蔵で6年を過ごされ、その間に南部杜氏の資格を取られたようです。その後、39歳の時に東薫酒造に杜氏として迎えられたそうです。それからずっと東薫酒造で酒造りをしていますが、及川さんのお話では現在84歳で杜氏として45年間勤められており、現在でも現役の杜氏だそうです。でも84歳で現役の杜氏は日本広しと言えども、ほとんどおられないと思います。それだけ、色々な事情があるのでしょうね。頑張って続けていってほしいですね。
及川杜氏は数々の輝かしい受賞歴を持ち、数え上げれば切りがないですが、全国新酒鑑評会で金賞16回、東京国税局管内新酒鑑評会で優秀賞39回、南部杜氏自醸酒鑑評会で金賞連続40回もありますし、南部杜氏協会の会長を務められたほどの人です。今でも岩手県から冬場だけ部下を連れて東薫酒造に来ているそうです。どうして千葉まで来るのですかとお聞きしたところ、冬の厳冬の岩手より、千葉の方が天気が良くて気持ちが明るくなるからだそうです。現在は岩手の人3人と東薫の社員3人で酒造りをしているそうです。そんな気持ちはわからないわけではないですね・・・・
<及川杜氏の講演>
会のはじめに及川杜氏による日本酒に関する講演をいただきました。講演の内容は日本酒の酒類、主な製造工程と初心者向けのお話なので、ここでは省略いたしますが、このために「日本酒とは」という冊子を用意されたいたことには驚かされました。
そのお話の中で杜氏の仕事は酒造りの方針を決めて、設計図(仕込み配合)を決定しそれに合わせた酒造りをすることで、酒造りの全責任を負うことだそうです。ですから杜氏の言うことは絶対で杜氏が白いものを黒と言ったら黒として皆が力を合わせるそうです。でも酒造りは一人ではできません。蔵人のチームワークが大切で、寝食を共にして心を合わせることが大切だというお話を聞きました。
今ではこの杜氏制度も後継者が少なくなって、だんだん減少してると聞いています。これも時代の流れでしょうね.。徳永社長はこの伝統を守っていきたいとおっしゃられました。
<試飲したお酒の紹介>
1.大吟醸 叶
東薫と言えば叶と言われるほど、数々の鑑評会で受賞をしている銘酒です。
山田錦35%精米、日本酒度+6、酸度1.2、アルコール度数17度の原酒ですが、口当たりが柔らかく、香りはカプロン酸の香りですが穏やかで、奇麗な余韻と切れの良さを持っているけど今どきの香り高いお酒ではなく、じっくりと味わえる昔ながらの大人のバランスのお酒だと思いました。
酵母は公表されていませんが、杜氏のお話では18号系の酵母だそうです。さすが東薫の最高峰のお酒というだけのことはあります。
2.搾りだて 本醸造 生酒
このお酒は千葉県産のふさこがね65%精米の本醸造の原酒の生酒の新酒です。本醸造ですから10%弱のアルコール添加しているお酒ですが、それを生の新酒を出すのは酒造りに自信がないと出せないお酒です。
アルコール度数が19度もあるけど、アルコール感が少なく、あたりもさわやかで、しっかりした味わいの中にも、アルコール添加によるシャープさを維持したうまみたっぷりのお酒でした。
これを会の2番目に飲むお酒として出してきたのは杜氏の自信の表れだと思いました。4合瓶で1518円と少し高めですが飲んでみる価値はあります。
3.純米大吟醸 及川 生酒
このお酒は岩手県の吟ぎんがを使った精米度50%の純米大吟醸でアルコール度数は17度のお酒ですが、及川杜氏の名前がついたお酒です。インターネットで調べてもほとんど出てきません。
このお酒を造ったいきさつは聞いていませんけど、飲んでみると叶のようなカプロン酸の香りは抑えられて、ややイソアミル系の香りがしました。口あたりが柔らかく、テクスチャーが良いお酒でしたので、杜氏に酵母を聞いてみましたら、M310だそうです。
杜氏が新しい酒を狙った野心的なお酒ではないかなと思いました。
この後お酒を2本ごとに写真を撮ってしまいましたので、ちょっと読みにくくなりますがご容赦ください。
4.二人静 吟醸 5.原酒
「二人静」とはすごい名前のお酒ですね。ラベルも静御前のような昔の女性姿でした。蔵元の奥様と前の社長の奥様が同じ名前の静子さんだったのでその名前を付けたそうです。名前よりお酒のイメージの方が先だったそうです。
このお酒は新潟県産の5百万石55%精米の吟醸酒ですが、アルコール度数15-16度、日本酒度+2、酸度1.1という飲みやすさを目指したお酒だと思います。飲んでみると口あたりは優しく、すっと飲めるお酒なので、女性でも楽しめる淡麗なお酒でした。酵母はM310だそうです。
「原酒」は千葉県産のふさこがね70%精米のお酒ですが、どんな造りをしているお酒なのかは説明がなかったのでわかりません。何しろどっしりしたうまみのあるお酒で、ちょっと荒々しいので、熟成してから飲みたかった気がしました。
6.卯兵衛 純米吟醸 7.辛口本醸造
「卯兵衛」はこの蔵の創始者の名前で、地元の農家に契約栽培したもらった総の舞という米を使った純米吟醸です。純米らしい昔からのお酒の味を狙ったお酒のようですが、飲んでみるとちょっと酸味を感じるので、味はあるけどちょっとシャープなイメージを出していました。
「辛口本醸造」はふさこがね精米655の本醸造ですが、2回火入れのお酒です。飲んでみると2回火入れで出てくるちょっと熟成したような香りがするので、好みのお酒ではありませんでした。しいて言えばお燗で飲みたいお酒です
「夢と幻の物語」は関東地方の山田錦50%精米の大吟醸ですが、何となくわかるようで、わからないお酒にしたそうです。
ラベルは映画監督の黒沢明がデザインしたもので、映画「乱」の絵コンテだそうです。
飲んでみるとサラリしているけど口に含んだとたんに辛みを感じてしまうお酒でした。どうしてこのようなお酒を造ったのかをもう少し聞いてみたかったです。
「樽酒」は飲み忘れましたので、省略します。
最後にこの蔵のお酒の印象を述べてみますと、この蔵は昔からの技法を守りながら、色々なお酒を造っていますが、良いお酒は口当たりがよく、単に甘いだけでなく適度な辛みを入れた造りが多いような気がしました。今のはやりのお酒に迎合しないで、素直にそのままの造りをしているのが良いと思いました。でも、及川さんは高齢なので、近いうちに新しい杜氏に代わる可能性も高いのではと思いますが、新しい杜氏による新しいセンスと過去の伝技術と融合した新たなお酒を期待して行きたいと思っていますす。
最後にこの会を企画していただいた宮坂さんにお礼を申し上げたいと思いますが、せっかくここまで企画したのですから、会の中でお酒1本1本丁寧に杜氏に説明してもらってからお酒を出すようにしてもらえるといいなと思っています。
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