先月のことですが、神田の醇さんのお店で大信州の蔵元を囲む会が開かれました。大信州の酒は最近気になっていたお酒なので、直ぐに予約をして参加しましたが、醇さんが開く日本酒の会はいつも土曜なのに、この日は金曜日の開催でした。どうしてかなと思って行ってみて、その理由が判りました。
いつもは酒販店さんと醇さんのコラボレーションで行っているのですが、この日は日本酒を楽しむ会を主催している堀川紀幸さんとのコラボレーションで、お酒はほとんど堀川さんが集めたお酒のようです。堀川さんのホームグランドは吉祥寺の蕎麦屋さんだそうです。
この写真の方が堀川さんです。凄い若い感じの人ですね。こんな若い方が日本酒の会を開くなんて、日本酒の将来が楽しみですね。
大信州酒造は長野県松本市にある明治21年創業の蔵で、現在の社長は前社長の田中義也(よしなり)さんの長男の田中隆一さんです。 隆一さんは東京農大の醸造学部を卒業された元々造りの人ですので、弟さんが蔵に戻る前は、この蔵の杜氏の下原多津栄(たづえ)さんと一緒に酒造りをされれていました。
下原さんは小谷流の筆頭杜氏で、現在96歳で現役を引退されていますが、大杜氏として蔵には時々顔を出されているようです。現在の蔵の酒造りの原点を造った方で、その流儀はきちっと後の人に引き継がれているようです。彼の一番有名な言葉が、「蒸しに始まり、蒸に終わる」があります。これについては後で説明します。
この会に参加して蔵やお酒の説明をしていただいたのは、隆一さんの弟さんの常務取締役で製造部長の田中勝巳さんです。お写真を下に示します。
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勝巳さんは現在蔵に入って、新杜氏の小林幸由さんと一緒に酒造りを担当し、ここにお見えになる前まで蔵で酒造りをして、髭茫々でしたが昨日すっきり剃って、ダンディなお姿で登場されました。勝巳さんは酒造りは蔵で勉強してここまでなった人なので、酒造りの腕はまだまだですと謙遜されていました。蔵に戻るきっかけになったお酒があるそうで、後でご紹介しましょう。
この会で勝巳さんに色々とお聞きして、この蔵にはきちっとした流儀がる事がわかりましたので、僕なりにまとめてみました。その基礎になっているのは酒造りは蒸しに始まり蒸しに終わるという言葉です。これを僕なりに解釈すると、お酒の原料は蒸したお米に麹菌をふりかけ麹を造り、それをもとに酒母を作って醪造りに入りますが、その最終段階でも蒸米を原料として投入されるので、酒造りの初めから最後まで蒸米が大切な原料となるので、これを一番多大切にするという意味だと思います。もうひとつ考えられるのは技術的にもここが難しいとい言う意味なのかもしれません。
蒸米が大切ということは原料処理が一番大切だということに繋がるので、ここあたりにこの蔵の酒造りの流儀があるように思えました。
僕がまとめた結果は以下の通りです。
1.原料米はすべて契約農家で造ったお米をつかう
原料米は地元の金紋錦とひとごこちが全体の60%、山田錦が40%で、すべて顔の見える農家と契約しているそうです。地元のお米は判るけど、山田錦はどうしているのでしょうか。
2.精米は自社精米で行う
全量自社精米かどうかは聞きませんでしたが、そうだと思います。
3.洗米は大吟醸から普通酒まですべて手洗いで行う。
この蔵の生産高は教えてくれませんでしたが、従業員は19名もいるようですので、少なくとも2000石は超えていると思いますので、それをすべて手洗いでするのはなかなか大変なことです。
4.麹米と掛米はすべて単一銘柄の米を使用する。
大吟醸以外はすべて49%精米の酒米を麹米とするので、他のお米を麹米として使用することはない
5.お酒はすべて無濾過原酒で加水しない
お酒の味を考えると通常はアルコール濃度が16%で完了するように醪管理をしているようです。
6.酸を出さない造りを原則としている
蔵を清潔にすることから始まって、蒸米の造り方、麹の造り方を酸を出さない工夫をしているようです。
7.和を以て貴と為す
勝巳さんが蔵に入った時は緊張してピリピリしたそうですが、蔵のモットーは大杜氏の座右の銘である以和為貴が意味するように、皆が心を一つにして、和やかに酒造りをするだそうで、最近はこれができるように努めているそうです。
8.仕込み蔵にモーツアルトを流している
仕込み蔵に音楽を流している蔵は喜多方市の小原酒造と、岐阜県の小町酒造が有名ですが、長野県でも酒千蔵野でも利用しているようで、一般的になってきていますが、この蔵はいつから始めたのかは知りません。
以上が僕が感じた大信州の酒造りの流儀ですが、齋彌酒造の高橋杜氏の考えと共通しているところが多いように感じました。齋彌酒造では麹米は掛米と変えて使う点と醪に櫂入れをしないという点が違っていますけどね。
この蔵では大吟醸クラスは金紋錦を使っているそうですが、金紋錦について気になる点がありましたので、ちょっと触れておきます。金紋錦は父親が山田錦、母親がたかね錦で交配させた品種ですが、長野県の木島平村でしか栽培されていなかったお米です。昭和31年に開発された後、県内の各地の蔵で使用していたのですが、美山錦やひとごこちなどの栽培しやすいお米ができてからは次第に栽培されなくなり、昭和63年には石川県の蔵の福光屋でしか使われなくなったそうです。
その後飯山市の蔵が金紋錦に着目し、何度も折衝した結果平成16年に再び使えるようになったということですが、勝巳さんのお話では大信州では20年前から木島村から種もみをもらい栽培して、約20年間も金紋錦との付き合ってきたそうで、それだけに金紋錦への思い入れがあるそうです。でもこの話は初耳です。そうだったのですか・・・・・先見の目があったのですね。
次に飲んだお酒を紹介しますが、全部で10本です。
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1.純米大吟醸 スパークリング
全量金紋錦49%精米の純米大吟醸のスパークリング酒です。あらばしりの酒に適度なもろみを入れて、瓶内発酵させたお酒です。
写真のように白くにごっているけど、湧き上がってくる泡の粒が小さいのが特徴です。
口に含むと炭酸ガスによるしわしわ感が舌の上よりも上あごに広がる感じで、滓の甘さはあまり感じないで、飲み終わったときに辛みを感じるお酒でした。
泡の粒が小さすぎて良く見えないでしょう。炭酸ガス注入するスパークリングでは泡が大きくなるそうです。
このお酒は勝巳さんが蔵に戻る気かっけになったお酒だそうです。勝巳さんは自分の蔵のお酒は意識して飲まないで、シャンパンハウスでシャンパンを飲むのが好きだったそうですが、ある時このお酒を飲む機会があって、このお酒の上手さに感激したのが、蔵に帰るきっかけになったそうです。
この酒にめぐり会えてよかったですね。
2.辛口 特別純米酒 生
ひとごこち100%使用で、70%精米の特別純米酒ですが、麹米は例によって49%精米のひとごこちを使っています。大信州酒造で一番の売れ筋のお酒だそうです。
香りは抑え気味で、旨みがドンと立ち上がるのではなく、幅広くゆっくりと広がっていき、うまみの後に奇麗な辛みを感じます。
馬刺しのユッケに合わせて飲みましたが、ピッタリでした。
3.NAC 2012 純米吟醸
NACとはNagano Appeliation Contorol の略で、長野県原産地呼称管理制度という意味です。
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このラベルが瓶についています。
このお酒は田中前知事が造った制度で2002年に発足、2003年に日本酒に適用されたものです。
長野県産のひとごこち100%使用で、麹米49%精米、掛米59%の精米純米吟醸酒で、インターナショナルワインチャレンジにも出しているお酒です。
甘みが柔らかく、穏やかに広がり、余韻が適度にあって飲みやすいお酒です。辛みはあまり感じません。
4.超辛口 純米吟醸 生
このお酒も3と同じひとごこち100%の純米吟醸ですが、超辛口を狙ったものです。辛口だけど如何に旨みを載せるかに心を配ったそうです。このお酒も売れ筋のお酒だそうです。
飲んでみると甘さはあるけど全体的にドライな感じで、口の中でのシャープさがあり、どのドライさがずっと残って、最後に切れていくといったお酒でした。
勝巳さんの説では辛みは舌の一部でも感じるけど、のどを通った時甘さがないのが辛いということですが、辛いお酒といっても、感覚的に表現するのは難しいですね。
5.純米大吟醸 稲光
金紋錦49%精米の純米大吟醸です。ラベルの上の方にイナビカリとかいてあります。イナビカリはお米が豊作なときに起きるといわれているので、その言葉を使ったそうです。
このラベルに以和為貴と書いてありますが、これが蔵のモットーだそうです。
いかにも大吟醸のバランスで、立ち上がりに香りがたつのですが、そんなに太いものではなく、ゆっくりと旨みが広がっていくと行くという感じで、本日の鰆には合いますね。
6.辛口 特別純米 火入れ
このお酒は2番のお酒の火入れしたものです。
1番のお酒よりは全体的にライトな感じで旨みのふくらみが減った分だけ、辛みを感じるように思えました。
最後にどのお酒が日本酒度として一番辛いかをクイズでテストされましたが、僕は当たりませんでした。結果は後でお知らせします。
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7.仕込み32号 超辛口 純米大吟醸
49%金紋錦を全量使った純米大吟醸の生酒で、仕込み32号というのは32番目に仕込んだお酒という意味だそうです。
金紋錦は山田錦の家系をもった良い酒米なのですが、精米が難しく割れやすいので、辛口にしにくいお米だそうですが、今年は狙い通りに仕上がったと言っておられました。
香りは穏やかながら、口に含んだときからシャキッとした辛さを感じてしまうのですが、ほど良い旨みがあるので、嫌な辛さではありません。
辛さの順番は4番、7番、2番だそうです。4番は日本酒をが14もあるそうですが、僕にはドライに感じたのですがそれが辛かったのですね。
8.香月 純米吟醸中汲み 滓がらみ 生
49%精米のひとごこち100%使用の滓がらみ純米吟醸の中汲みの生酒で、特定の酒屋酒に卸しているお酒だそうです。49%のお酒がどうして純米吟醸なのかな。これはルール違反ではないですよね。
酸味を感じながら余韻が結構ゆっくり広がって行くお酒でしたが、炭酸を結構含んでいるので酸を感じるのですと説明されていたけど、今日飲んだ中で初めて酸を感じたお酒でした。
9.神酒 純米大吟醸
このお酒は番外編として蔵から直接持ってきたお酒で、山田錦35%精米の純米大吟醸で、通常は蔵の3℃の貯蔵庫で2年熟成させて、1升3万円で販売しているお酒の新酒だそうです。神寿と書いてかむじゅと呼ぶそうです。
飲んでみましたら今日飲んだお酒とは全く違う次元のお酒でした。口に含んだときの味の太さがあり、後までずっと味がしっかり残るけれども、裏に酸が合ってバランスしている気がしました。でもやっぱりチョット堅いかなと思いました。
でもやはりすごい酒です。
10.極上みぞれりんご梅酒
長野県の豊野町のリンゴ「サンふじ」の中でも袋をかぶせない太陽の日の浴びたリンゴと南紅梅の手摘みした梅の蔕を一粒づつ取った特別の梅だけを使った梅酒だそうです。
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リンゴと梅の味のする後味のさわやかな梅酒でした。
大信州は蔵が二つあって、メインの工場は松本市ではなく長野市の北にある豊野町にあるようです。ですから木島村にも近いので、金紋錦の栽培もこの近くで出来たのかもしれませんね。
これで試飲したお酒の紹介は終わりますが、この蔵のお酒は口に含んだときにパット味が広がるのではなく、味が奥の方に広がりながら余韻を楽しめるお酒が多いように思えました。その広がりに中に、辛みを感じたり、余韻の強さが変化したりお酒によって味わいが変わります。総じて安定した味を出せる蔵だと思います。
お料理について
1.前菜
馬肉のユッケと小袖笹寿司、野沢菜艶煮
醇さんの母親が松本出身で、子供のころのお肉の料理というと馬刺しだった思い出があり、これを選択したそうです。
2.刺身
信州サーモンのカルパッチョ
長野県産の肴と言えは佐久の鯉くらいで有名なものはないけど、最近はきれいな水の中で養殖されたサーモンに力を入れているそうです。外国産のサーモンとは違ってさっぱりしているけど味のあるそうで、東京ではめったに買えないそうです。
3.椀物
竹の子汁(鰹だしで酒粕が隠し味)
この竹の子は長野県の標高の高い所に生えている竹やぶに下に生えているねまがり竹で、非常に高級なものだそうです。これを取りに行って崖から落ちる人が毎年いるくらい大変な採取しにくい竹の子だそうです。
4.煮物
鰆の煮おろし
鰆は冬から春にお会いしい魚で、揚げたものを大根おろしを入れたお出汁で煮たもの
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5.冷采
塩いかと若布の酢のもの
塩いかとはゆでたいかを塩漬けしたものを塩を抜いたもの。長野県の保存食としてあるものですが、しっかり塩を抜くと皮もゲソも撮れて家庭で使いやすい便利なものです。東京では手に入らないそうですが、御徒町の吉池にあるそうです。
6.油物
蕎麦掻き揚げだし
そば粉の中に豚のそぼろを入れたものを上げたのもらしい。良く聞いていなかったので、間違えていたら、醇さん修正してください。
7.食事
山賊どんぶり
山賊焼は長野県の郷土料理で、鶏の唐揚げや焼いたものを垂れに付けて物を言うようである。
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