今年の10月9日に茨城県酒造組合主催で、茨城地酒祭りが浅草の花やしきで行われました。この日は同じ日に山口県、千葉県、群馬県、茨城県の酒造組合主催の試飲会が行われましたので、一遍に2か所行ってみようと、昼間の群馬県の試飲会に参加した後、茨城県の試飲会に参加することにしました。
茨城の地酒祭りは今年で5年目ですが、初回に行った時は花やしきの半分の場所を使ってのイベントでしたので、狭くてあまりじっくり飲めなかった思いがあります。現在は花やしき全体を使ってのイベントになったこと、去年から茨城県の全国新酒鑑評会で金賞を取る蔵が急増したので、その原因を勉強するために参加することにしました。
花やしきは浅草に古くからある遊園地ですから、そこでどうやってお酒祭りをやるのかイメージできますか。花やしきの紹介に使われているイメージ図をお見せします。
クリックして大きくしてみてください。中央に池や公園があり、それを取り囲むように通路があり、その通路の脇にブースをつくって、食事や試飲ができるようにレイアウトされていました。
下の写真は入口に近いところの様子です。まさに遊園地の中という感じですね。
下の写真は池の脇のところの様子です。結構趣のある場所となっていました。
基本的に会場には屋根はありません。雨が降ったらどうするのでしょうね。今まで雨が降ったことがあったかどうかを聞くのを忘れました。
会場の入り口の脇には今年の全国新酒鑑評会の出品酒が並んでいましたが、これに気がついたのは会が終わるころでしたので、ほとんどの瓶が空になっており、試飲はできませんでした。こんな企画があるとは知りませんでした。来年からは入り口で会場のレイアウト図をつくって配ってもらいたい気がします。どこにどんな蔵、どんな企画展があるかわからず、飲むしかないことになるものですから・・・・・・・
これで会場の雰囲気をわかってくれたと思いますが、この中で今年の全国新酒鑑評会で受賞した蔵を探すのは大変なことでしたが、何とか時間内で10蔵を試飲することができました。とりあえず、試飲した順番に紹介してみたいと思います。
1.青木酒造 御慶事
この蔵は東北本線の古川駅のそばにある蔵で、創業は江戸末期の1831年の歴史があるそうで、銘柄の「御慶事(ごけいじ)」は三代目当主が大正天皇御成婚の折、皇室の繁栄と日本の国のますますの隆盛への願いを込めて「最高のよろこびごと」という意味で「御慶事」と命名したそうです。生産高は300から400石ぐらいと小さな蔵で、主に地元で飲まれているようです。
写真お二人は蔵元の奥様の青木弥生さんとその娘さんです。娘さんは看護師をしていたのですが、一昨年より蔵を手伝っているそうで、お酒のことが良くわかっていました。高校生の弟が蔵の仕事ができるようになるまで、頑張るそうです。お二人には今年と去年の金賞受賞酒を持ってもらいました。
金賞酒はしっかりした味わいで、なかなかいい出来でした。お米は山田錦で、酵母は10号系M310酵母だそうです。杜氏は福島県出身の南部杜氏で、最近代わったばかりの48歳ですが、冬場だけ出かけてきている杜氏だそうです。過去の受賞歴を見ますと過去20年間で8回の金賞受賞は杜氏の腕が昔から凄い人だったのでしょうね。だからこの味が出せるのでしょう。
2.廣瀬商店 白菊
この蔵は茨城県の石岡市にある蔵で、創業は1805年ですからすでに210年も歴史のある蔵です。この蔵の特徴は万人受けをするずっと飲み続けられるような酒つくりだそうで、決して刺激的な美味しさがなくても体が無意識にほしがるようなお酒だそうです。
写真の方はブースの女性の方で、たまたま蔵元さんがおられず、蔵人の男の人がおられただけでしたので、女性にお願いしただけです。
手に持っているのは今年の金賞受賞酒です。この蔵も酵母はM310で、青木酒造さんの金賞受賞酒とおなじ味のバランスを感じました。常温で飲みましたので、甘みを結構かんじるうまい酒でしたが、もう少し後味のきれがほしい気がしました。でも、これをベースにして造った市販の大吟醸はすっと飲めるお酒に仕上がっていました。
会の終わりにもう一度ブースの寄りましたら、8代目の蔵元の専務取締役の廣瀬慶之助さんにお会いできました。後ろの明るいネオンのせいで変な写真になってすみません。
手に持ってもらったお酒は金賞受賞酒でしたが、飲んだお酒はオヤジナカセというお酒でした。山田錦の大吟醸レベルのお酒だそうですが、この酒米をつくっている兵庫県の農家のせがれが初めて造ったお米で、このお酒を、親父に飲ませたらこれは旨いと泣いたエピソードからつけたお酒だそうです。飲んでみましたら中々いいバランスのお酒で、この蔵の造りがわかる気がしました。
蔵の生産高は500石位と小さいです。この蔵も昔からの杜氏制を維持していて、専務は造りには余り介入しないようにしているそうですが、酒質にはこだわりがあるように思えました。金賞受賞回数は過去20年間で5回でした。
3.岡部合名会社 松盛
この蔵は常陸太田市にある蔵で、久慈川の上流の里川流域の水田地帯にある水とお米に恵まれたところにあります。創業は明治8年で、代表銘柄の「松盛」は屋敷内の松と酒の神様の松尾大社が栄えるようにと命名したそうです。
生産高は600石位ですが、日本酒だjけでなく焼酎やリキュールにも力を入れている蔵です
写真の方は社長の岡部守博さんです。持っていただいたお酒は大吟醸の松盛と純米吟醸の岡部です。
金賞受賞酒は持ってこられなかったので、代わりの大吟醸を飲みましたが、この酒もお米は山田錦45%精米で、酵母はM310だそうで、他の蔵の金賞受賞酒のバランスによく似ていました。飲み口同じでも蔵によって後味に差が出るようです。
純米吟醸岡部は静岡酵母で香りがイソアミル系のさわやかな香りで、飲みあきしないお酒に仕上がっていました。これはなかなかいいですよ。このお酒の中身を詳しく聞くのを忘れてしまいました。この蔵も全国新酒鑑評会で金賞を過去20年間で10回も取っている蔵なのですね。知りませんでした・・・・・
4.吉久保酒造 一品
この蔵は水戸の偕楽園のある水戸市の本町にある蔵で、創業は寛政2年(1780年)ですから200年以上の歴史がある蔵です。もともと米を商う商人だったのですが、急遽酒造りに変身して成功したそうです。今の一品のブランド名をつくったのが明治の初めと聞いています。蔵の生産高は聞き忘れましたが、従業員が23人いるようですので、2000石位はあるのではと思われます。
写真の方は蔵人の方ですが、お名前はお聞きしませんでした。山形県の東北泉の名杜氏であった佐々木勝雄さんを杜氏として招き入れたのが平成15年ですが、今も御活躍ですかとお聞きしたら、去年お辞めになたそうです。
金賞受賞酒はなかったので、他のお酒を飲ませていただきました。純米吟醸の雄町は佐々木杜氏の造りとおなじと聞き、飲みましたが東北泉の酒とはちょっと違うなと感じました。
このお蔵はM310と9号酵母を使い分けているようですが、短稈渡の純米吟醸は香り高く綺麗なバランスでしたので、このお酒を持ってもらいました。
この蔵も過去20年間で金賞を9回も取っていたのですね。
5.野村醸造 柚美人
関東鉄道常総線の石下駅の北にある蔵で、創業は明治30年で、土着系の酒蔵として百十余年になります。酒銘の由来は当地が千年の歴史ある結城つむぎの産地であり、紬美人といたそうです。 酒質は柔らかく、すっきりと切れが良いのが特徴だそうです。蔵の生産高は1000石弱と思われます。今年の豪雨で鬼怒川が氾濫し、蔵が冠水して大変だったそうですが、仲間の支援を受けて、11月中の復旧の目途が立ったそうです。
写真の方は代表取締役の野村一夫さんで、持ってもらったお酒は出品酒とおなじ造りの大吟醸です。酵母はM310だそうで、飲んでみると優しさがあって、この蔵の特徴が出てるようでした。なかなかいいですよ。
この蔵の杜氏は55歳の南部杜氏ですが、他の従業員は皆社員だそうです。平成11年に入ってきた新人が杜氏の指示通りに素直に造ったら、初めて金賞が取れたそうです。なまじっか他の蔵の経験があると、無意識に我流が出てしまって失敗するとおっしゃったのが印象的でした。
過去20年間で6回金賞を取っているそうですが、31歳の息子が早く一人前になるのを望んでいるそうです。
6.磯蔵酒造 稲里
磯蔵酒造は茨城県笠間市稲田地区にある蔵で,、創業は江戸時代末期だそうです。この地区は古くから稲の郷と呼ばれ、御影石の台地から湧き出る良質の水(石透水・軟水)があることから酒造りの絶好な地域だったそうです。
この蔵は明治元年に稲里を酒名とした磯酒造店を開業させたそうです。この蔵は生産高が1500石もある立派な蔵ですが、酒造りは今の時代に流されないぶれない酒造りをしているようです。ですから過去に全国新酒鑑評会で金賞を取ったのはたった3回だそうです。
左の人は営業の方で、右の人が社長の磯貴太さんです。初めに訪れた時は社長がおられませんでしたので、女性に大吟醸をもってもらいました。大吟醸は山田錦38%精米ですが、柔らかい落ち着いた味わいで、同じ山田錦50%精米の純米を飲みましたが、切れがあるけど旨味の表現に遊びがある味わいでした。随分個性のある酒造りをする蔵だと感じました。
2度目の訪れた時に社長のお会いして、造りのことをお聞きしました。お酒をつくる時には、最初にどんなお酒をつくろうかを考えるそうで、三日月のようなシャープお酒をイメージしたら、ラベルも三日月にして、深海の鯛に合わせるお酒をイメージした場合は、味がふんわりと、風のような余韻を持たせたくなり、お米は500万石、ラベルは風となるそうです。これが社長の流儀だそうです。
ですから、金賞を取るための酒つくりはしていないそうで、ここ2年連続で金賞を取れたのは、たまたまで、嬉しいけど狙っているわけではないそうです。社長はお姿だけでなく考え方もユニークで、面白い方ですね・・・・・
7.月の井酒造
この蔵は大洗町にある蔵で、創業が慶応元年だそうですから、ちょうど150年になる蔵です。大洗町には酒蔵は1件だけだそうですから、大洗の食材に合わせた酒造りをしているのが特徴のようです。蔵の生産高は500石位だそうです。
写真の方は製造部長の山田博さんです。持っていただいたのは大吟醸の月の井ですが、酵母はM310だそうで、味が軽めのお酒でした。その味では金賞は無理だなと思ってお聞きしたら、金賞酒は1801系酵母を使ったそうですが、今回は飲めませんでした。過去20年間で6回の金賞受賞です。
この蔵の代表は坂本啓子さんで、御主人ががんでお亡くなりになり後を継いだそうです。その闘病記は「さいごの約束」として出版され、テレビドラマ化もされたそうです。その約束で出来たのが「オーガニックの日本酒」の「和の月」で、有機認定の美山錦80%精米のお酒ですが、この時飲み忘れてしまいました。次回は是非飲んでみたいと思っています。
8.武勇(株)
この蔵は紬の里の結城市にある蔵で、創業は江戸末期だそうで、初代の保坂勇吉が「荒武者のような力強い酒を」と造った蔵だそうです。社長は5代目の当主で長男の保坂嘉男さんで、次男の保坂大二郎さんと協力してやっているそうです。
杜氏は代々越後杜氏でしたが、現在は地元の結城杜氏が酒造りをしているそうです。山田錦は兵庫県産、五百万石は富山県産、雄町は岡山県産とこだわった造りをしていますので、しっかりした蔵だと思いましたが、生産高は1000石だそうです。
写真の方は蔵人の深谷篤志さんで、純米吟醸の和(和やか)と辛口純米酒を持ってもらいました。今年の金賞は久しぶりの受賞(過去20年間で2回目の受賞)だそうですが、茨城県工業技術センターの先生の指導を受けて、先生の言う通りに造ったら金賞を取れたそうです。取れたのは嬉しいけど、ちょっと悔しい感じもするそうです。
金賞受賞酒の酵母は1801系を使ったそうです。和はお米は雄町58%精米で、酵母は1801系と9号系のブレンドだそうです。飲んでみましたら、綺麗な香りとベ全体にうまくまとまったお酒でした。この蔵のお酒はあまりインパクトを出さない造りのようで、ちょっと特徴がないような気がしましたが、久振りに金賞を取ったのですから、来年以降が楽しみな蔵です。
9.宏和商工 日立酒造工場 二人舞台
この蔵は豊島区の東池袋にあるブライダル関連の商売をしている㈱宏和商工のお酒の製造部門を言います。工場は日立市にありますが、写真を見る限り昔からの造りの蔵のようです。酒造免許を取ったのが2006年10月で、工場開設が2006年11月ですから、どのかの蔵を買収したのではないでしょうか。詳しいことはわかりません。蔵の生産量は2000石位のようです。
写真の方は酒造り担当の営業マンで、持っていただいたのは今年の金賞受賞酒です。飲んでみましたら、中々品の良いお酒で、味が綺麗でバランスの良いお酒でした。酵母は9号酵母だそうです。金賞を取ったのは去年が初めてで、今年が2回目だそうです。その秘密を聞くのを忘れてしまいました。
生酛つくりの純米吟醸も飲みましたが、生酛らしい酸味で、味のバランスをうまく造っていますが、僕には何かが足りなく、心に突き刺さらない優等生のお酒のような気がしました。
杜氏は社内杜氏で、長岡さんと言うようですが、この工場の代表者も長岡さんでしたのでどうなっているのかわかりません。
10.根本酒造 久慈の山
この蔵は水戸と郡山を結ぶ水郡線で北に1時間ほど行った山方宿の近くの久慈川沿いにある蔵です。創業は慶長8年(1603年)ですから約400年前であり、茨城県では須藤本家、藤田酒造店に次ぐ歴史を持つ蔵だそうです。生産高は800石位だそうです。
酒造りも昔から技術力があり、35年前に大吟醸の久慈の山を出すなど、吟醸酒を得意としている蔵のようです。全国新酒鑑評会でも過去20年間で11回の金賞を取っている実績があり、茨城県では最も多くの回数受賞している蔵です。
写真の方は20代目の当主である根本朗裕さんです。凄くお元気な方で、社長ですが午前中は蔵人として造りを手伝っているそうです。
金賞受賞酒はありませんでしたが、最近出した新しいブランドの上丸(かみまる)の純米大吟醸と純米吟醸を飲みました。純米大吟醸は美山錦40%精米で酵母はM310です。旨味が綺麗でバランスの良い美味しいお酒でした。
純米吟醸はひたち錦55%精米で、しっかりした旨味があるけど、後味はすっきりしたお酒でした。今までいた南部杜氏に代わって社員杜氏になったばかりですが、金賞を取れたのでほっとしているそうです。
以上で今年金賞を取った10蔵の紹介を終わります。
<全体の印象>
全国新酒鑑評会の金賞を去年が11蔵、今年が10蔵とるようになったわけを、調べるためにこの試飲会に来たのですが、その理由を来福の藤村社長に教えていただきました。3年前から、茨城県酒造組合の技術部会が中心になって、蔵元よりも社員の人を対象に、外部から先生をお呼びしたり、他の県の蔵を見学したりする勉強会をしているそうです。武勇の蔵人の深谷さんが言われたように、茨城県の工業技術センターの先生の指導も良かったのだと思います。確か福島県が金賞受賞蔵が多いのも工業技術センターの先生の指導が良いからという話を聞きましたので、そういうことなのでしょう。
それから茨城県は創業の古い蔵が多く、その古さでは日本のトップクラスだということ、過去の金賞を受賞している蔵が多いこと、金賞受賞蔵の大部分が1000石以下の小さな蔵であることを初めて知りました。その割には茨城県の蔵の知名度はあまりないですね。僕が知っていた蔵は、来福、郷の誉、大観ぐらいでしょうか。実力のある蔵が多いので、もっとPRをすべきだと思いました。僕は東京在住なので、関東地方の蔵の味をもっと勉強しようと勉強しなければと心を強くしました・・・・・・・
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