8月の20日に西日暮里の稲毛屋で、喜多方の若手5蔵の造り手を囲む会が開かれましたので参加してきました。稲毛屋主催の通常の日本酒会でこのような会がおこなわれることはありませんが、今回は大塚の地酒屋「こだま」の児玉武也さんが企画したものです。
地酒屋「こだま」は武也さんが、今の場所にあった酒屋の「つたや」を2010年に買い取って開いたお店で、もともと「つたや」は福島のお酒が強くて、武也さんはその流れを継いで福島を幅広く取り扱っています。でも武也さんは普通の酒屋さんとは違います。もともとお酒の趣味が高じて酒屋になった方ですので、お酒を売って儲けようという気持ちが少なく、たとえ完成度が低く、生産量の少ない蔵であっても、一生懸命に良いお酒を造ろうとしている蔵をお酒を売ることで応援しようという人です。ですから福島の蔵の場合も、武也さんは自分の目で蔵を見つめなおして、応援しようと決めた蔵だけを扱っているものと思います。取り扱う福島の蔵数が多いと言っても、現在その数は16蔵で、福島全体の1/4ほどにしかなりませんが、全蔵武也さんが足を運んで見定めた蔵ばかりです。
武也さんの地道な応援の成果が出たのか、最近福島の若手の杜氏が造るお酒の質が上がり色々なところで表彰されるようになってきました。それを受けてか、2014年には福島の新試飲気鋭の6蔵をディープに感じる会を武也さんが開催いたしました。この会のことについては僕が参加をしてブログで紹介していますのでご覧ください。
http://syukoukai.cocolog-nifty.com/blog/2014/09/6-656f.html
喜多方には11の蔵がありますが、その中でこだまで扱っている蔵は7つあります。その中でも若手が杜氏として造りをしている5蔵を取り上げて、蔵元を囲む会が行われることになりました。その蔵をご紹介します。5人のうち3人が上述のディープな会に参加していますので、紹介内容に重なることがありますので、ご容赦ください。
・ 峰の雪酒造場 大和屋善内 佐藤健信
・ 笹政宗酒造 ささまさむね 岩田悠二郎
・ 喜多の華酒造場 星自慢 星里英
・ 合資会社会津錦 会津錦 斎藤孝典
・ 大和川酒造 弥右衛門 佐藤哲野
各蔵の杜氏の紹介とお酒の紹介をいたしますが、お話の中にお米、酵母、アカデミーの話が良く出ますので、この3つは事前に紹介した置きます。
1.福島県清酒アカデミー
この組織の正式な名前は福島県清酒アカデミー職業能力開発校で、福島県が認めた色々な職業の労働者の職業能力の開発・向上を目的とした職業訓練校の一つです。平成のはじめごろは新潟の端麗辛口の酒造りが持てはやされ、新潟県ではそれを支えるために技能者要請機関として「新潟清酒学校」を設置するなど先を見据えた活動をしていたようです。
福島県酒造組合としては、新潟より10年も遅れを取ってると思い、平成4年に新潟の事例を参考にしながら清酒アカデミーの前身となる技術研修を開始し、翌5年に県から普通職業訓練短期課程の認識意を受け、現在の組織がスタートすることになったようです。最初から3年のカリキュラムだったとすると、最初の卒業生は平成7年になります。
現在の訓練内容は初級・中級・上級の3年課程に分かれていて、それぞれ約100時間強、3年で300時間強の講義と実習をするそうです。その訓練科目には醸造にかかわる様々な専門科目(醸造数学、微生物学等の基礎科目から醸造実務科目、各種関連法律、醸造の歴史など)を教わるようです。
今年の4月で23期生が卒業し、毎年約10名強の人が卒業するので、卒業生は延べ256人だそうで、福島県の蔵は62蔵あるようですが、造り手のほとんどの人がこの卒業生になっているものと思われます。
平成17年度に全国新酒鑑評会での金賞受賞数で全国1位になって以来、今年までほとんど1位か2位(平成20年度だけが3位)の成績を残しており、大きな飛躍をしています。その陰にはアカデミーの講師をしている福島県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの醸造科長の鈴木賢二先生がおられます。鈴木先生は新しい情報を得たり、お互いが刺激しあうことで、それぞれの蔵の意欲も技術も高まるという思いで活動されていますが、自分の研究成果として、平成14年に吟醸酒製造マニュアルを作り、蔵元に配ったそうです。そこには搾りから火入れまでの最適な期間や酵母が順調に育っているかを確かめる計算式など先生独自の方法を書くと同時に、酵母は特定せず各蔵の工夫が生かせるような幅を持たせたものになっています。このマニュアルはわかり易いということで評判となり、瞬く間に各蔵に広がり、それが平成17年度の1位につながったわけです。いまでも鈴木先生はさらなる研究を続けており、先生の努力によって福島県の醸造レベルが向上したことは間違いのないと思います。インターネットからお写真をお借りしました。
2.福島県産酒米
福島県が開発した酒造好適米で今使われているのは「夢の香」しかありません。夢の香は八反錦と出羽燦燦の交配種で、耐冷性や耐倒伏性が弱い五百万石に代わる米を目指したもので、耐冷性は五百万石より強く、耐倒伏性もやや強いものができました。酒米としての特性も五百万石より心白の発現率が高く、粒形も大きく吸水性も優れていて、醪中で溶けやすい軟質性のある酒造好適米です。
一般米としてはコシヒカリやチヨニシキやひとめぼれ、天のつぶやミルキークインが造られています。チヨニシキはこしひかりとトヨニシキを親に持つ飯米で、酒米としては掛米に使われています。天のつぶはコシヒカリに匹敵する味を持つお米として、福島県が15年かけて開発し、平成22年に県の奨励種となったお米ですが、酒米としてはあまり使われていません。
3.福島県産酵母
福島県で開発された酵母は非常のたくさんあるようですが、それを纏めて統一的に紹介した文献が見つからなかったので、今回紹介する酵母は蔵で使っているものに絞って紹介します。酵母の開発もハイテクプラザ会津若松技術支援センターが担当されており、最近の開発には鈴木先生が担当しているものと思われます。
<うつくしま夢酵母(F7-01)>
この酵母はハイテクプラザ会津若松技術支援センターが昭和63年より開発を進めてきて、協会酵母701号から改良された酵母が様々な苦労をした後、平成3年に夢酵母として発表されました。この酵母は酢酸イソアミル系の酵母で、洋ナシやメロンのようなさわやかな香りがして、酸味が少なくソフトでマイルドな味わいがする酵母です。
<うつくしま煌酵母C10(701-15),R50(901-A113)、G30(701-g31)>
夢酵母が開発された後、カプロン酸系の香りの酵母が求められ、協会7号系酵母と協会9号系酵母から改良されて開発された3種類の酵母が平成20年に煌酵母として発表されました。C10はカプロン酸エステルの華やかな香りが強く、R50はイソ系とカプ系の2種類の香りが楽しめ発酵力の強い辛口系に向いている。G30は香りのバランスが良く、高級酒向けの上品なお酒に向いていると言われています。
<TM-1>
福島県で開発された酵母で、全体的な酸味を抑えながらきれいな酸味だけをだけを出す特徴がある酵母のようです。
<TUA>
これも福島県開発の酵母で、低温で発酵力が強い酵母らしいですが、使っている蔵は喜多の華酒造くらいしかないようです。
以上で前知識の紹介を終わり、今回参加した蔵を紹介しますが、たまたま飲んだ蔵の順で紹介することにします。
下の写真は武也さんが5人の蔵元に説教しているわけではありません。会の終了時に5人の人たちのすばらしさを会の参加者にPRしているときの写真です。お店の構造上こんな風にしかできなかったようです。蔵元さんもみんな一生懸命武也さんのお話を聞いている姿が印象的ですね。
<峰の雪酒造場 大和屋善内 >
この蔵は昭和17年に佐藤信八さんが創業した新しい蔵ですが、現在の会津ほまれの真向かいにあった大和錦の第2工場として東京向けのお酒(峰の雪)を造る目的でスタートしたそうです。その後昭和30年に本家から独立し峰の雪酒造となったそうです。
写真の方は4代目蔵元の佐藤健信さんです。健信さんは東京農大の醸造学科を卒業された後、新潟の麒麟山に6年務め、製造と販売の勉強をした後平成21年に蔵に戻ってきます。
その後福島清酒アカデミーに3年勉強した後、平成23年の造りから製造部長(実質の杜氏)となり自ら求めるお酒を造り始めることになります。
まず、今までは普通酒しか作っていなかったのを変えて、特定名称酒に力を入れると同時に自分の好きな味のお酒、あまいけど、重たくなく軽く飲めるお酒を造り始めることになります。
自分が狙った甘くても飲み飽きしないお酒を造るのは結構難しく、アミノ酸を1.0以下になるようにするそうです。そのためには洗米から全ての工程を見直したが、あまいお酒を造るには強い麹菌を使って糖を増やせばいいけど、蛋白混濁という白く濁るお酒になる可能性があるので注意をしているそうです。飲んだお酒は以下の通りです。
1.大和屋善内 純米生詰め
2.大和屋善内 純米大吟醸
3.Yamatoya Zennai
このお酒は喜多方産の五百万石60%精米の純米無濾過生原酒です。甘みがあっても飲みやすいお酒を目指していて、強い麹菌を使って糖分を多く出すとともに、醪の発酵を最後までは行わずに糖分があるうちに絞るそうです。でも若いうちに絞ってしまうとヨーグルトのようなつわり臭(ジアセチルの香)が出るので、もろみの中のピルビン酸がなくなったのを確認して絞るそうです。この香りは絞ってからしばらくしてから出てくるので、この蔵のように絞ってすぐ瓶詰めするところでは、出荷前に瓶詰めしたお酒を確認して、クレームが出ないよう気を付けているそうです。
飲んでみるとさわやかなイソアミル系の香りと程よい甘みとさわやかな酸を感じるお酒でしたが、この酸は福島県のTM-1という酵母からくるもののようです。確かに飲み飽きないタイプのお酒と言えます。
2.大和屋善内 純米大吟醸
大和屋善内のお酒はすべて喜多方産の五百万石を使っていますが、このお酒は出品酒を狙った40%精米の大吟醸ですので、カプロン酸エチルの華やかな香りが出るM-310という酵母を使っています。出品酒は袋撮りをしますが市販品は薮田で絞っているそうです。薮田で絞った場合最後に絞る責めの部分はどうしてもアミノ酸が増えるので使用していないそうです。結構細かいとろろに気を使っているのですね。
3.Yamatoya Zennai.
このお酒は蔵に戻って自分では締めて造ったお酒で、今までにないタイプのお酒なので、横文字の表示にしたそうです。五百万石60%精米の純米酒で、アルコール度数14度、日本酒度-3、酸度3.8のお酒です。かなり酸味が効いていますので、バーベキューや肉料理に合うそうです。この酸はもろみの中で乳酸を増やして出しているようです。
飲んでみると酸味は感じますが、甘さとかき消されてそれほど強くは感じられませんが、白ワインの感覚で飲めそうです。
(まとめ)
佐藤さんもアカデミーの出身ですが、先生の物まねではなく独自のお酒を造ろうという姿が印象的でしたし、醸造の理論にも詳しい方のように思えました。
<笹政宗酒造 ささまさむね>
この蔵は1818年に岩田善次郎が喜多方市で創業した蔵で、喜多方駅から北へ4㎞程行ったところにあります。僕は行ったことはないけど、写真を見ると昔ながらの趣のある建屋とお庭が素敵な蔵でした。
写真の方が社長兼杜氏の8代目の岩田悠二郎さんで、まだ31才で、喜多方では最年少の社長だそうです。大学卒業後は普通のサラーリマンをして、酒造りは全くしていなかったそうですが、4年前に蔵に戻ってきて、このままでは蔵には未来はないと感じて、杜氏のもとで勉強をしつつ、清酒アカデミーで研修をして3年前から自分のお酒を造り始めました。
当時は生産量も落ち込んでいたので、売れるお酒の造りをアカデミーの鈴木先生のアドバイスを受けて始めたそうで、その意味では広戸川の松崎さんと同じですね。
そして、最初のお酒はどんな名前にするか悩んだそうですが、いい案が思いつかずにひらがなの「ささまさむね」としたそうですが、字体は書道家に書いてもらったそうです。字だけ見ると女性のように思えますが男性だそうです。
1.ささまさむね 純米吟醸 生酒
2.ささまさむね 特別純米 無濾過生原酒
3.ささまさむね 特別純米 熟成
このお酒は喜多方産五百万石50%精米の純米吟醸生酒で、ガス感が残るように気を配ったお酒だそうです。酵母はF7-01(夢酵母)で、日本酒度は±0、酸度1.4の少し甘口のお酒、さわやかな酸とガス感で切れを出しているようです。
飲んでみると、イソアミル系のさわやかの香りとともに、口に含んだ時の甘みのぐわいが素晴らしく、しっかりした味わいを感じました。アミノ酸度は0.9ですからアミノ酸の旨みよりはグルコースの甘さなのかもしれませんね。
2.ささまさむね 特別純米 無濾過生原酒
このお酒は同じ五百万石精米度55%を麹米に、華吹雪精米度55%を掛米に使った特別純米の1回火入れです。アルコール度数15度、日本酒度は+2くらいですが、酸度が1.6~1.7もあってすっきりした味わいです。最初は味が物足りないくらいでしたが、半年寝かすことによりだんだんまろやかさが出てきているので、晩酌用としておすすめだそうです。
3.ささまさむね 特別純米 熟成
このお酒は広島県産の千本錦50%精米の特別純米の1回火入れのお酒です。このお酒は2015年に作った最初のお酒で五万石が手に入らないので、広島県の千本錦にしたそうで、インタナショナル・ワイン・チャレンジに出したら純米酒の部門で入賞したそうです。そのお酒をこだま店で熟成したのもだそうです。
酵母は他のお酒と同じ夢酵母ですが、飲んでみると熟成香したためかイソアミル系の香りも少なく、熟成香もない飲みやすいお酒になっていました。
(まとめ)
彼もアカデミー出身ですが、先生のいいとこどりをしてうまく自分お酒を造っているように思えました。この会の前日の福島の地酒の会で、純米大吟醸原酒の生一本を飲みましたが、甘口ですがとてもパワフルなのにバランスの良いお酒になっていました。たった3年でこんなお酒が造れるのはとてもいいセンスを持っていると感じました。
<喜多の華酒造場 星自慢 >
この蔵は喜多方駅から歩いて数分の所にある駅に最も近い蔵です。創業は大正8年で、星金吾さんが味噌醤油を営んでいた本家より分家をして始めたそうです。最初の銘柄は「星正宗」でしたが、戦時中一時休業していた蔵を昭和31年に復活させた時「喜多の華}と改名したそうです。
喜多方にある多くの蔵の中で最も新しい蔵だったので、喜多方の華になる思いでつけられたようです。この蔵を今の形にしたのは現社長の星啓志さんです。早くして父を亡くした啓志さんは、醸造研究所の先生に指導を仰ぐだけでなく、自ら色々な蔵に足を運んで勉強した結果、今のベースを作り上げたのですが、娘3人の家族なので、いずれ自分の代で蔵を閉じようと思っていたようです。
写真の方が長女の星里英(りえ)さんで、若い頃は家を継ぐつもりはなく東京でOLをしていたそうですが、東京での試飲会で蔵のお酒の販売を手伝っているうちに、自ら勉強しなおして蔵を継ぐことを決めたそうで、東京農大短期大学に行くことを決め、卒業後蔵に戻ったのが4年前の2013年です。
その後福島清酒アカデミーで研修を受けた(岩田悠二郎君の同期)後、今では杜氏としてつくりをまかされているそうです。お酒は蔵に戻ってからすぐにお酒を造り始めているそうで、今年で4年目になるお酒もあります。
1.蔵太鼓 純米辛口 生酒
2.星自慢 特別純米 無濾過生原酒
3.喜多の華 純米吟醸
このお酒はご飯を食べながらお酒を飲む人のために作ったお酒で、香りが少なめで辛口に仕上げたそうです。原料米は麹米がたかねみのり50%精米、掛米が一般米60%精米の純米酒で、日本酒度+10、アルコール度数15%としてアルコール度数を抑え、飲み飽きしないように作っています。酵母はTUAで7号系の福島酵母ですが、この酵母を使っているのは喜多の華酒造だけではないかと思います。
このお酒は生原酒と生酒と火入れの3種類を造っているそうで、この蔵の定番となっているお酒です。
2.星自慢 特別純米 無濾過生原酒
このお酒はしっかりお酒を嗜む人のために作ったお酒で、社長の啓志さんが造った自信作で、星自慢という銘柄として平成元年から売り出しています。お米は麹米が五百万石50%精米、掛米がたかねみのり55%精米の純米酒で、酵母は9号系を使用していて、アルコール度数は18度、日本酒度-1、酸度1.7のお酒です。飲んでみるとしっかりとした味わいがあるけれども、飲んだ後の切れもありとても良いバランスになっています。お酒の好きな人にはぴったりのお酒と言えます。
3.喜多の華 純米吟醸
このお酒は理英さんが蔵に戻ってからすぐに作り始めたお酒で、今年4年目になるので星が4つついています。ですからこの星は毎年数が増えるそうです。このお酒は麹米が五百万石50%精米、掛米チヨニシキ55%精米を使った純米吟醸で、日本酒を飲まない人にも飲んでもらいたいような甘みがあって香りがあるお酒を目指したそうです。でもアルコール度数は17度もあり、飲みやすいけど、軽いお酒ではありません。それはこれをきっかけに普通のお酒も好きになってもらいたかったからだそうです。
(まとめ)
里英さんは蔵に戻った時に東京で知り合った人と結婚して、2人で酒を造ろうとスタートしたのですが、事情があって離婚したそうです。でも里英さんはお父さん似でとても明るい方なので、すぐに良い方に巡り合うとおもいます。これからどんなお酒を造りたいですかとお聞きしたら、この蔵の基本となる3つのお酒をベースにしてさらにブラシュアップしていきたいと、笑って答えてくれました。どんなお酒に進化するか楽しみですね。
<合資会社会津錦 会津錦 斎藤孝典>
この蔵は耶麻郡高畑村にある蔵で、喜多方駅から西に10㎞程行った山間にある蔵で、最近合併して喜多方市になったそうです。
創業は江戸時代のようですが、大火によって記録がなく、形上創業は明治元年となっている古い蔵です。創業は戦時中は休業していましたが、昭和22年に斎藤酒造を設立し、現在の会津錦となったのは昭和42年だそうです。
写真お方は6代目の専務取締役の斎藤孝典さんです。孝典さんは1976年生まれの現在41歳ですが、大学は東京農大の醸造学部に行き、卒業後家庭の事情ですぐに蔵に戻って後、清酒アカデミーにはいきましたが、現在のようなシステムはまだ出来上がっていなかったそうです。
造りの勉強は主に蔵にいた越後杜氏から教わり、26才の時には杜氏になったそうです。蔵の生産高は300石にも満たない小さな蔵で、若い孝典さんと蔵人の小竹さんだけで酒造りを始めることになったそうですが、酒造りは基本を大切にした真正直な酒を目指しているそうです。
他の人とは違うお酒をつくりたい常々思っていたので、地元のお米を積極的に使うことを考え、最初はチヨニシキを使っていました。6年前にミルキークインという米を使ったら、もち米のような粘りがあり酒米としては大変使いにくかったのですが、出来上がった酒は日本酒度が+9もあるのにお米の甘さを感じることに驚いたそうです。そこで、飯米の良さを生かすことを考え、色々試験をした結果、今ではほとんどのお酒を天のつぶという飯米を使っているそうです。
1.純米大吟醸 袋吊り生原酒
2.純米 火入れ原酒
3.純米 すっべったこっぺった
このお酒は新しいブランをのQ(KU)シリーズの最初に作ったお酒で、天のつぶ50%精米で、M310を酵母に使った純米大吟醸です。どうしてQ(KU)というかというと、福島9号の天のつぶを使っていることと、人が本来喰う米で、人が喜ぶお酒を造りたいということからQと呼んだそうです。どんなお酒なのでしょうか。
飲んでみると飯米とはおもえないような甘みと切れの良さを持つお酒で、このお酒を気に入ってくれた日本料理店の店主が黒龍の雫に負けないお酒ということで雫と同じ瓶に入れたとのことでした。
確かにすごくうまいお酒でしたが、飯米の50%精米の大吟醸が4合瓶で5000円もするのは高すぎです。
2.KU 純米 火入れ原酒
このお酒はQシリーズの第2弾として2年まえに作られた純米酒の火入れ原酒です。お米は当然天のつぶ70%精米で酵母はうつくしま夢酵母です。このお酒のラベルがユニークでQの文字の中に侍がいて、ご飯を食べている姿が描かれています。
飲んでみると70%精米とは思えない奇麗さのあるお酒でした。確かにすごいお酒ですが、4合瓶1550円は仕方がないのかな。
3.純米 すっべったこっぺった
このお酒は「つべこべ言わないで」という意味の方言で、孝典さんが杜氏になってすぐ作ったお酒ですが、今はお米を昔はチヨニシキだったのをこれも天のつぶに変えています。精米度は同じ70%で優しい甘みと酸を感じるお酒でしたが、KUとは格が違う感じでした。
KUの純米とどうしてこんなに味が違うかをお聞きしたら、KU純米は大吟醸と同じ麹を使っているのと酵母の違いから来ていると言われました。火入れの回数はどちらも2回火入れだそうです。同じお米で精米度が同じでも造りで随分違うのですね。
(まとめ)
孝典さんは41歳でこの5蔵の若者の中では一番年上ですが、そのせいかとても自信をもってお酒を造っているように感じました。確かに70%精米の飯米からあれだけの味を出せるのですから、清酒アカデミーの教えだけではできない技だと思いました。これからどんなお酒が飛び出すのか注目していく蔵だと負いました。
<大和川酒造 弥右衛門 佐藤哲野>
この蔵は喜多方駅から北に5分ほど歩いたところにある蔵ですが、創業はとても古く、江戸時代の中期の1790年だそうです。今まで紹介した4蔵の生産高は300石前後でしたが、この蔵は約1500石以上ある立派な蔵で、平成2年には郊外に飯能蔵を新設して近代化を図っています。
写真の方は杜氏の佐藤哲野さんです。哲野さんは大学を卒業後、酒造りをしたくて、すぐ蔵に入って蔵人として酒造りをする一方、清酒アカデミーで研修を受けたり、東京の醸造研究所で勉強したりして腕を磨いてきたそうです。
哲野さんのお父さんの房伸さんが現在9代目の佐藤彌右衛門を名乗っていますが、東日本大震災で原子力の不評被害が出たことから、こちらの問題を解決すべく会長に退いたので、それまで杜氏をしていた父の弟の和典さんが社長になったそうです。哲野さんはそのタイミングで3年前に杜氏になったそうです。ちょっと棚ぼたですね・・・
お酒を紹介します。
1.彌右衛門 純米辛口
2.彌右衛門 純米カスモチ
3.彌右衛門 別品
このお酒は彌右衛門の柱となっているお酒で、お米は麹米が夢の香50%精米で、掛米がチヨニシキ60%の純米酒です。2年前から本醸造を含めてすべてのお酒の麹米は夢の香50%にしているそうで、、そうすることにより非常に安定してきたそうです。この考えは新政の佐藤祐輔さんの考えと同じですね。今後真似するところが増えそうな気がします。
飲んでみると米の甘みを感じる優しい味わいでした。冷でもお燗でもあうお酒でした。
2.彌右衛門 純米カスモチ原酒
昔から同じ方法で造ている伝統的なお酒で、麹米は夢の香50あ5、掛米がチヨニシキ65%精米で、麹の量は通常20%ですか、カスモチでは倍の40%とし、醪の水の量も少なめにして濃度の濃い状態で発酵させ、原酒のまま搾ったお酒です。
カスとは醪のことを言い、モチは4段仕込みに使うもち米のことで、日本酒度-25もあり非常に甘いけど切れもあるお酒になっていて、常温熟成に向いたお酒だそうです。
3.彌右衛門 別品
このお酒は哲野さんが杜氏になってから始めた生酛造りのお酒で、お米は夢の香55%精米で酵母は別品は天然の蔵付き酵母で、酵母添加の生酛はすっぴんと言うそうです。柔らかくてクリアな甘みと優しい酸味のバランスの良い生酛でした。
(まとめ)
哲野さんの蔵はある程度仕組みもガッチリきまっっている大きな蔵なので、杜氏と言えどもやりたいことが勝手にできるわけではないけど、やれる範囲の中で、新しいことにチャレンジしているのはわかります。とてもまじめに取り組む方のようですが、思い切って色々チャレンジしてもらいたい気がしました。
以上で喜多方の5蔵の紹介を終わりますが、僕の感想としては、清酒アカデミーの鈴木先生の教えが行き届いていて、みんな同じような造りをしているのかと思っていたら、鈴木先生の教えは理解したうえで、皆が個性ある造りをしていたので驚かされました、喜多方の蔵の将来は楽しみですね・・・・
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