各務原の林本店の蔵見学のあと、里榮子さんの推薦の鰻屋さんで昼食をとってから、小町酒造まで車で送ってもらいました。小町酒造は高崎本線の蘇原駅より北に2-3kmほど上がったところにありますが、林本店と同じ各務原市にあるので、車で10分くらいで着いてしまいました。
この蔵の創業は明治27年で、金武吉兵衛さんが酒造免許をとり、酒造りを始めたそうです。小町酒造の名前は小野小町と関係があるらしいのです。小野小町の伝説は色々あるようですが、この地の近くにある延算寺には、皮膚病を患った小野小町がこの寺の水を付けて治ったという伝説があるようです。創業者が寝ているときに枕元に小野小町が現れたというので、小町酒造と名付けたようです。創業者はきっと小野小町が好きだったのでしょうね。
蔵は現在5代目の蔵元で常務取締役兼杜氏の金武直文さんが蔵を取り仕切っておられます。金武さんは東京農業大学の醸造学部を卒業された後、東京の有楽町の西武百貨店に勤務した後、八海山で有名な八海醸造で修業して、小町酒造に入ったそうです。当時は雪の松島の宮城酒類㈱の南部杜氏として有名な小田島さんの弟子が小町酒造の杜氏をしており、その杜氏の下修業重ねて、8年前から杜氏をしているようです。
この方が直文さんです。この日は僕のカメラの電池が容量不足となって、カメラが使えず、スマホの写真となったので、ピンボケになってしまいました。ごめんなさい。直文さんは農大同期に石鎚の越智浩さんがいて、先輩には十四代の高木顕統さん、後輩には南部美人の久慈浩介さんがいて、皆に色々いじられて大変なんだそうです。確かにそのメンバーに色々言われると対抗するのが大変でしょうね。でも彼らの良いところは学ぶけども、自分は自分とわが道を進むのが彼の凄いところです。
それでは蔵をご紹介します。
ここが蔵の土蔵ですが、この黒塗りの板と丸い敷石が国の登録有形文化財となっているそうです。土蔵の奥に母屋がありますがその黒塀も全て文化財だそうです。確かに伝統を感じる趣があります。
この母屋は木造2階建、切妻造桟瓦葺とし、建築面積は154m2もあります。外壁は黒漆くい仕上げで、軒は出桁造(でげたづくり)です。入口には杉玉を飾ってあり大変趣のある建物でした。でも住んでいるところが文化財になると大変ですよね。
酒造りをしている蔵は土蔵の隣に別棟で建っています。下の写真がその外観です。
蔵の中はオフシーズンなので、酒造りの道具はかたずけられていて、お酒の貯蔵庫として使われているので、どこに何があるのかが良くわからない内に終わってしまいました。判ったことは昔は最大3000石の生産量があり、大きなタンクもたくさんあったそうですが、今ではタンクの大きさ小さく、数も少なくしているそうで、生産高は500石くらいだそうです。設備投資は効率を考えて、サーマルタンクや冷蔵庫に集注しているようなので、製造設備として新しいものはあまりないようです。
<お米>
酒造好適米は岐阜県産の飛騨ほまれ、岡山産の山田錦、長野県産の美山錦の3種類でその他は一般米のあさひの夢です。
<洗米>
洗米は昔からの洗米機を使っていますが、50%精米以上の大吟醸は手洗いだそうです。
<蒸し>
昔は連続蒸米機をつかっていましたが、今は移動式の甑を使っているそうです。
<仕込>
この蔵ではお米を溶かしめで味が出ることを狙っていますが、そこで雑味を出さない工夫をしているそうです。
<搾り>
搾りは薮田だけです。
<火入>
東北の試験所の先生は火入れまでに期間はできるだけ短い方が良いと指導しているようですが、この蔵では2-3日から1週間熟成させて火入れしているようです。
<貯蔵>
零度レベルサーマルタンクと、10度レベルのタンクと15度レベルのタンクの3種類を使用して熟成度度合いを調整しているいるそうです。最近は瓶貯蔵専用の冷蔵庫を購入したそうです。
貯蔵用のサーマルタンクのある部屋ですが、この壁際を見てください。ここにスピーカーが見えます。この蔵でが25年前から自然音楽酒造の考え方で、音楽を響かせています。これを始めたのは先代の蔵元で、音楽家の宮下富実夫さんが奏でるヒーリング音楽に興味を持ったことから始まります。ヒーリング音楽とは自然界の癒しの音を取り入れた音楽で、人間をリラックスさせる効果があるそうです。お酒も自然の生き物が醸し出すものであるから、微生物にも良い環境作りになるという考えで、昭和62年より始めたものです。それから25年になるそうですが、ずっと続けているので眼に見えないけど何か良い結果を出してくれているのかもしれませんと、直文さんはおっしゃっていました。
<直文さんが目指すお酒造り>
最近のお酒の好みの傾向は香りが適度にあって、旨みもあるけれども奇麗に広がって、適度な酸味とともに奇麗に消えていくお酒が好まれているようですが、この蔵の目指すお酒はお米の旨みをしっかり出してさわやかな後味のある旨い酒造りを目指しているそうです。ですから生の状態でタンクで熟成してちょうど良いタイミングで出すことを狙っています。他の蔵がいやがる生熟に敢えてチャレンジしているようです。
蔵人の人数は専属が2人で、他に地元の人がひとり応援と女性のパートが3人でやっているそうです。造りに入るのは11月からですが、熟成期間を見るので、年内には新酒は出さないそうです。
<試飲させていただいたお酒です>
1.純米吟醸 無ろ過生酒
飛騨ほまれ55%精米の純米吟醸を3月から生で氷温熟成したお酒です。酵母が去年までは9号酵母を使っていたのですが、今年から岐阜県のG酵母を使ったそうです。
口に含むと直ぐに膨らまないで、じっくりと柔らかく広がり、余韻を持ちながら消えていくお酒です。軽い酸味が切れを良くしているのでしょうね。この酒が蔵の味を象徴するものだそうで、地元で一番出ているお酒だそうです。
2.純米吟醸 別囲い
これも飛騨ほまれ55%精米の純米吟醸ですが、酵母は1801系を使っていて、0℃の氷温貯蔵庫に貯蔵したものです。
飲んでみたらバターのような香りがしましたが、これが生塾で出てくる香りらしいんですが、これ以上熟成させない方が良いぎりぎりかもしれません。いずれにしても夏までに出荷する特別のお酒だそうです。酸味が適度に会って、僕は良いなと思いました。
別囲いという名前は特に意味がないようです。
3.純米大吟醸 無濾過滓絡み 生原酒
岡山県産の山田錦50%精米の大吟醸で無濾過滓がらみの生原酒です。滓を入れたまま生で熟成している試験品のようなもので、たまたま蔵に5本あった中の1本で、市販していないそうです。
候補が1601系ですが、香りはほとんど感じません。(入江さんによれば、うっすら朝鮮ニンジンの香りがあると言っていました)滓を入れたまま熟成させると、香りが滓に吸着してしまうからだそうです。
味としては甘酸っぱい感じでしたが、おししいお酒になっていました。滓を入れての生熟成はこれからだそうです。
4.季節限定 夏吟醸
夏限定の夏吟醸で、飛騨ほまれ50%精米のアル添している吟醸酒で、常温で生で熟成させて、火入れしてから瓶内でさらに熟成した吟醸酒です。
常温で熟成しているので、熟成香が強いので、僕にはちょっと熟成が進んでいる感じがしました。ラベルが長良川の花火をイメージしたもので、ラベルの色とお酒の味のミスバランスが面白いかも。
5.超辛口+20 限定滓酒
このお酒は宮城酒類の小田島杜氏の技術を受け継いでいるお酒です。お米は麹米が飛騨ほまれ65%、掛米があさひの夢65%です。超辛口にするには麹から出る甘みを酵母にしっかり食べさせなくてはいけないのですが、それを急ぐと雑味の多い酒になるそうです。ですから醸造期間を40日から45日かけて、適度な割水をしながら発酵させるそうです。
このような造りをすると、目の細かい滓が沢山出てしまうので、あらかじめ細かい滓だけをとったお酒にアル添して調整したものを商品として出していたのですが、地元で滓がたくさん含んだお酒を出したら、大変評判が良く直ぐ売れてしまったお酒だそうです。
滓がない場合は1年半くらい熟成させないと飲みにくいのですが、滓を入れるとあまり熟成させなくてもバランスが良くなるそうです。この滓酒もアル添していますが、搾る前の日本酒度+24もあるそうです。次には純米の日本酒度+20のお酒にチャレンジしたいそうです。
東京でこのお酒を一番扱っているのは池袋の升新商店だそうですから、お近くの人は買いに行ってみたらどうですか。価格は1升2580円とリーズナブルです。
6.美酸純米
このお酒は岐阜県技術センターが開発した多酸系のG酵母を使ったものです。お米は飛騨ほまれ60%精米の純米酒です。この酵母はリンゴ酸系の酸を良く出すので、少し低アルコールにしてもおもしろいかなと考えて作ったものだそうです。アルコール度数は14-15度です。
このお酒は3年前に作ってその時は奇麗な酸でしたが、熟成させたので、熟成香が強くなって、酸の良さが引き出されていないのかもしれません。今年も同じものを造ったそうですが、酸の出方が変わったので、ここには持ってこなかったそうです。今後この酵母をうまく使ったお酒を研究していくとのお話でした。
僕としては奇麗なリンゴ酸味を引き出すのであれば、あまり熟成させない方がいいのかなと思いました。
以上で試飲したお酒の紹介は終わります。もう一度直文さんに出てもらいましょう。
直文さんは可愛い奥さまとお子様に恵まれて、幸せそうな感じが良くでていまして、僕たちにも丁寧な言葉使いをする一歩下がった感じのする人で、その優しから、先輩、同期だけでなく後輩からもいじられやすいタイプの人だそうです。
口では一歩下がった言い方はしますが、お酒に対する思いははっきりしていて、誰が何と言おうと生熟の良さを引き出した旨い酒を追求する強い心があることが良くわかりました。これからも周りの人に引きずられず、
これを追及して日本一の生熟酒を作ってください。
前の日の岐阜の地酒に酔う会で奥さまのちかこさんとお話しした時に、家では私が主人にいじられているのですよとおっしゃっておられました。確かにこの日も僕たちの前で、「ちかこ」と呼び付けていましたので、家庭では意外にワンマンな人なのかしれませんね。ちかこさん!それは彼のストレス解消だと思ってあげてね。
最後に皆で集合写真をとりました。
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